あんばいどうかな

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 しちりんにやかんをかけていると、畑からもどった父さんがやってきた。 「おや? おもちをやいたにおいがするぞ。――なんだ。今日はのこしてくれてないのかぁ」  父さんは台においていた小ざらをのぞきこむよう見た。 「どこかの知らない子がきて、食べていったんだ。うまい、って言ってたよ」 「そうかぁ。そういうことならいいんだよ。知らない子、か。ふぅん。……どんな子だった?」 「どんな、って。丸ぼうずでさ、そでなしのシャツに、短パン、ゴムぞうりで――。えっ」  それってどうなの?  言っているとちゅうで気づいてしまった。今は一月、冬なのに。 「本当に? あ、いや。このさむいなか、本当にそんなかっこうだったのかい?」  目を見ひらき、おどろいた顔の父さん。 「だよね? 今まで気にならなかったなんて。おかしいな」 「う、ん」  父さんはうなずいて、小さく首をひねる。なにか、考えているようだった。 「……おかしいといえば。うちの畑をエサ場にしているカラスたちが、ちょっとね」  と、大げさに首をかたむけた。  ……れ?  なぜかはしれないけれど。父さんが話題をかえてきた。――だけど。それを気にしている場合じゃない。 「カ、カラス?」  ぼくのむねがざわついた。気分がおちつかない。 「カラスがどうかしたの?」 「急にいなくなったんだ。くらくなってきていたけど、見わたすかぎり、かげもかたちもないなんてね」 「そう、なんだ」  まさか、と思いつつも、耳のおくにしみついた声があった。 『あいつらか。かんしゃくどっかん』  ぼくは思い出していた。  男の子の顔。すがたをけす前に見せた、あの顔。顔つきを。                (おわり)
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