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……。
しばらく読んで、ふと顔を上げた。
女の子がぼくを見ていた。いつの間にか、むかいに女の子がすわっていて、その子がぼくを見ていた。ぼくらはむき合っていたけれど、かみの長い子だろうというのはわかった。黒というよりは、茶色のかみ。……同じ学年の子じゃ、ない。多分、六年生だ。かくにんしようとしたけれど、その子の緑のふくには名ふだがついていなかった。
「おもしろい?」
女の子が聞いてきた。
「まあ」
と、こたえる。ふかくは考えなかった。
「……そう」
女の子は、ぼくの顔をじっと見ている。
「まあ、というのは」
と、女の子は右手の人さしゆびをかるく下くちびるにあてた。
「まあまあ、ということ? とくに、どうということはない? どうでもいい?」
女の子の目がぼくをとらえる。――そのひとみは、はい色に見えた。
えっ、と思った時には、女の子のひとみは茶黒だった。
気のせい――だったの、かな? なんだかふあんになる。のどがつかえる。
「あ、いや。まだ半分も読んでないから。だから、まぁ……」
「まあ?」
と、首をかたむける女の子。ぼくはむりに声を出しているのに、女の子はなんだかぐいぐいくる。
「おもしろい。まあ、おもしろいんじゃないかな、なんて」
「そう」
女の子は、どうやらなっとくしたみたいで。うなずいて、少しだけ、わらった。
「ねぇ、きみってさ」
そう言って、女の子がぼくを見つめる。
「えっ? なに?」
「ううん、なんでも。なんでもないよ」
女の子は小さくわらった。
いやなわらい方じゃなかったけど、からかわれたような気分になった。
「……えぇと。続きを読んでもいいかな?」
「どうぞ」
と、女の子。
「それじゃ」
と、ぼくは、えみのようなものをつくった。せいいっぱいだった。
本に目をうつす。
……。
思い切って顔を上げると、女の子がぼくを見ていた。ずっと見られていたみたいだ。
「本、読みたいんだけど」
「どうぞ」
女の子がわらって見せた。
「いや。見られたままだと、読みづらいから」
「そう」
言って、女の子はなだめるよう、ぼくに手のひらをむけてうなづいた。
「いいことを教えてあげる」
女の子は、とくいそうに人さしゆびをふった。
「そういうのはね。集中していれば、気にならないものなのよ」
「なんだよ、それ。いや、そうかもしれないけど」
そう口にして、しせんを感じた。目をむけると、西野さんがまたけげんな顔をしてぼくを見ていた。
そうだ。図書室ではしずかにしないと。それに、クラスの子に今のじょうきょうを見られるのはマズい気がする。
「この本、かりて読むことにしたから」
言って、ぼくはせきを立った。
カウンターまで歩いたところで、ぼくが本を読んでいた長づくえの方を見た。
女の子は――いなくなっていた。
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