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ぼくたちは、ババぬきをしたり、七ならべをしたりした。
けれど。
七ならべになると、まったくかてなくなった七海がふてくされてしまった。読み方はちがうけど、七ならべには自分の名前の一字が入っているから、お気に入りのあそびみたいなのだけれど。今日はカードのめぐり合わせもあって、どうにもうまくいかないようだった。
「だめ。もうなげ出し。あ〜ぁっ。こんなカードじゃ、かてっこないよ」
七海はこたつの上に自分のカードをほうりなげた。
「そういうの、よくないぞ。よく見たら、いける場合もあるんだから」
ぼくも小さいころ、なげ出しになった時にはらを立てて母さんたちをこまらせたな。と、思いながら、ほうられた七海のカードをならべてやる。
「あれっ? これは――」
とびとびにならべていた手を止め、一まいのカード――ハートの4――を、ゆび先でたたく。
「あっ……」
ぼくのしめしたカードを見て、七海が口元をおさえた。本当に、出せるカードがのこっていたのだ。
「よく見ないから」
「見たんだもん。ちゃんと見たんだもん。……もう、いいよ。どうせ、つぎはなげ出しなんだから。あんなカードじゃ、どうせかてないもん」
「七海」
と、しかろうとした時だった。おじさんがゆっくりと口をひらいた。
「カードがかなしむ。トランプがかなしむよ」
おじさんはへんなことを言い出した。
うん? おじさん?
わずかの間、おじさんがべつなだれかに見えたような……。にているけどちがう、みたいな? うぅん。やっぱり気のせいか。
「入り用のものだけをぬいて、のこりはポイというのはよくない」
それは、気持ちのこもった口ぶりだった。
どういう意味だろう。入り用のものだけぬく、というのは。……出せるカードを出して、ということかな。で、のこりはポイ、は、なげ出しでカードをほうることかな。
……カードをほうったのがよくないと言ってるのかな?
「だって」
と、七海は口をとがらせた。
とがめられた、とは感じたらしい。
「さびしい。そういうのは、さびしいものだよ」
気づくと、おじさんはそろばんを持っていた。おなかのあたりで、いだくように。シャチャッ、と音がする。
「わかった。なげ出しでも、もう少しやさしくカードを出すよ」
七海がつぶやくよう、言った。
おじさんがうなずいた。ゆったりわらったように見えた。おじさんは、そろばんをこたつの上にもどす。もう一度、シャチャッ、と音がした。
「それじゃ、そろそろおいとましようか」
「えっ。まだいいじゃない。そういうの、かちにげって言うんだよ」
かちにげ、というほどじゃないと思うけど。たしかに、七海よりはかっていたかな。
「とどのつまりは、時間切れ……。いや、時間がきたということさ」
言って、おじさんは帰っていった。そのさいも、やっぱりタロウはほえなかった。
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