とどのつまりは

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「ただいま」  おじさんがうちを出てから少しして、父さんが帰ってきた。  父さんは大きなふくろをかかえている。 「今日はひさしぶりにすごいのがつれたよ。本当、何年ぶりかな。きのう作ったギジエをつかったんだぞ」  言いながら、父さんはふくろから一ぴきの大きな魚をつかみ出した。  それはそれは、大きなボラだった。七十センチはあるかもしれない。 「どうだ? 大きいだろう」 「うん。大きいね」  すなおにうなずけた。 「これだけ大きいと、もう、トドだな」 「魚なのに、トド? へんなの」  と、七海。ぼくも小さいころ、同じことを言ったきおくがある。  ボラは出世魚で、せいちょうするにつれよび名がかわっていくんだ。一番大きくなった時が、トド。 「トドは大きくなりすぎだ、って言う人もいるけれど。父さんは、すきだな。あぶらがのったまっ白いみは、たまらないね。よしよし。さしみにして、りゅうきゅうにして、ボラスキにして……」  と、うれしそうな父さん。  りゅうきゅうというのは、かんたんに言えばしょうゆづけ。ボラスキというのは、牛肉のかわりにボラの切りみをつかうスキヤキのことだ。 「あっ……」  ボラの頭を見ていたら、どういうわけか先ほどまでいたおじさんの顔が思い出された。 「ほらね」  と、七海。  なにが、ほらね、だよ。――と、言いたかったけれど。なんとなく、わかった気がして。そんな気がして。  ああ――。  雪はまだふっている。                (おわり)
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