おにぎりおやつ

2/4

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/42ページ
 七海(ななみ)?  と、声のした方を見る。妹の七海がおいかけてきたのかと思ったけれど、そうじゃなかった。いたのは七海ぐらいの年の、三つあみをしたどこかの女の子だった。  七海の友だちかな? 見たことがあるような、ないような。よくわからない。とにかく、名前を思い出せるような子ではなかった。 「お兄ちゃん、だれ?」  ぼくがたずねるよりも早く、女の子が聞いてきた。ぼくを見つめてくる。 「七海の兄ちゃんだよ。直太(なおた)っていうんだ」 「ふぅん。直太お兄ちゃんね」  女の子はひとしきりうなずくと、首を小さくかたむけた。 「わたしは、さっちゃん。さっちゃんだよ」 「そう。さっちゃん、っていうんだ?」  きおくをたどってみる。七海の友だちに、さっちゃんとよばれている女の子がいたおぼえはない。 「ふぅふふっ」  さっちゃんはといえば、ぼくに名前をよばれたのがはずかしいのか居心地がわるいのか――えみのようなものを顔にはりつけ、少しだけ体をくねらせた。  さっちゃん。七海の、新しくできた友だちか。 「ここ、直太お兄ちゃんの畑?」 「ぼくの畑というか。うちの、畑だよ。あそこからここまでと、この下と、むこうのと……」  ゆびさしながら、さっちゃんに教えてあげた。 「すごいね。畑がたくさん」  さっちゃんが目をかがやかせた。 「ねぇっ。どうやったら、畑をこんなにたくさん持てるの?」 「どう、って。どうなんだろう」  畑にしても田んぼにしても、ぼくが産まれる前からあったものだから。 「わからないの?」 「う〜ん。はっきりとはしないよ」  今まで、父さんとそんな話をしたことがなかった。今度、聞いてみよう。 「そうなんだ……」  さっちゃんは、ちょっとがっかりしたようだった。 「それからね。さっちゃんは、うちの畑をたくさんって言ってくれたけど、うちぐらいの畑はそんなにたくさんでもないんだよ」  さっちゃんは小さいから、うちの畑がたくさんあるように見えるんだろう。 「畑だけじゃ、せいかつできないんだ」 「そうなの? じゃ、どうしてるの?」 「えっ? えぇと。古いアパートがあって。それでどうにか……」  口にして、直ぐにこうかいした。  しまった。よけいなことを言っちゃった。うちのじじょうを、ペラペラと。 「古いアパートがあればいいの? 古いアパートがあれば、畑でやさいを作れる?」  さっちゃんが、しんけんな顔で聞いてきた。 「うん。まぁ……」  あいまいにうなずいた。  なにかちがう気もするけれど。うちの場合はそうだから。 「そっかぁ」  と、さっちゃんはえがおになった。 「古いアパート、古いアパート」  うれしそうに、何度もくりかえすさっちゃん。  べつに、古いひつようはないんだけれど。ま、いいか。 「さ、家にもどろう。風がつめたいよ」  先に立って歩き出そうとしたぼくだけれど。なにか言いたそうなさっちゃんが目にとまる。 「うん。もどろう。……あのね。直太お兄ちゃんってね。うん。あのね、あのね。……やっぱり、なんでもなぁい」  言いながら、さっちゃんがぼくの左手をにぎってきた。  ちょっと、びっくりした。べつにいいんだけれど。ならんで歩くにはあぜ道はせまいから、ちょっと歩きにくい。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加