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七海?
と、声のした方を見る。妹の七海がおいかけてきたのかと思ったけれど、そうじゃなかった。いたのは七海ぐらいの年の、三つあみをしたどこかの女の子だった。
七海の友だちかな? 見たことがあるような、ないような。よくわからない。とにかく、名前を思い出せるような子ではなかった。
「お兄ちゃん、だれ?」
ぼくがたずねるよりも早く、女の子が聞いてきた。ぼくを見つめてくる。
「七海の兄ちゃんだよ。直太っていうんだ」
「ふぅん。直太お兄ちゃんね」
女の子はひとしきりうなずくと、首を小さくかたむけた。
「わたしは、さっちゃん。さっちゃんだよ」
「そう。さっちゃん、っていうんだ?」
きおくをたどってみる。七海の友だちに、さっちゃんとよばれている女の子がいたおぼえはない。
「ふぅふふっ」
さっちゃんはといえば、ぼくに名前をよばれたのがはずかしいのか居心地がわるいのか――えみのようなものを顔にはりつけ、少しだけ体をくねらせた。
さっちゃん。七海の、新しくできた友だちか。
「ここ、直太お兄ちゃんの畑?」
「ぼくの畑というか。うちの、畑だよ。あそこからここまでと、この下と、むこうのと……」
ゆびさしながら、さっちゃんに教えてあげた。
「すごいね。畑がたくさん」
さっちゃんが目をかがやかせた。
「ねぇっ。どうやったら、畑をこんなにたくさん持てるの?」
「どう、って。どうなんだろう」
畑にしても田んぼにしても、ぼくが産まれる前からあったものだから。
「わからないの?」
「う〜ん。はっきりとはしないよ」
今まで、父さんとそんな話をしたことがなかった。今度、聞いてみよう。
「そうなんだ……」
さっちゃんは、ちょっとがっかりしたようだった。
「それからね。さっちゃんは、うちの畑をたくさんって言ってくれたけど、うちぐらいの畑はそんなにたくさんでもないんだよ」
さっちゃんは小さいから、うちの畑がたくさんあるように見えるんだろう。
「畑だけじゃ、せいかつできないんだ」
「そうなの? じゃ、どうしてるの?」
「えっ? えぇと。古いアパートがあって。それでどうにか……」
口にして、直ぐにこうかいした。
しまった。よけいなことを言っちゃった。うちのじじょうを、ペラペラと。
「古いアパートがあればいいの? 古いアパートがあれば、畑でやさいを作れる?」
さっちゃんが、しんけんな顔で聞いてきた。
「うん。まぁ……」
あいまいにうなずいた。
なにかちがう気もするけれど。うちの場合はそうだから。
「そっかぁ」
と、さっちゃんはえがおになった。
「古いアパート、古いアパート」
うれしそうに、何度もくりかえすさっちゃん。
べつに、古いひつようはないんだけれど。ま、いいか。
「さ、家にもどろう。風がつめたいよ」
先に立って歩き出そうとしたぼくだけれど。なにか言いたそうなさっちゃんが目にとまる。
「うん。もどろう。……あのね。直太お兄ちゃんってね。うん。あのね、あのね。……やっぱり、なんでもなぁい」
言いながら、さっちゃんがぼくの左手をにぎってきた。
ちょっと、びっくりした。べつにいいんだけれど。ならんで歩くにはあぜ道はせまいから、ちょっと歩きにくい。
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