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犬小屋の前をとおると、シバ犬のタロウがはしゃいだ。しっぽをふって、くさりをシャラシャラさせて歩き回っている。さっちゃんをけいかいしてほえたりはしなかった。
「さわってもいい?」
さっちゃんがぼくの手をはなして犬小屋に近づいた。
「あ、と。いいけど。タロウ、こっちにおいで」
と、タロウをよんであげる。
さっちゃんがタロウをなでている間、そばについていることにした。多分だいじょうぶだとは思ったけれど、タロウが飛びついてこけさせてしまったりしたらよくないもの。
……十分ぐらいそうしていただろうか。さっちゃんとタロウを見ていたらおなかがすいてきた。そろそろおやつの時間じゃないかな。
「おやつにしよう。手をあらっておいで」
ぼくは、はら時計と上手につき合っている。
「うん。……じゃぁね」
タロウに手をふって、外の水道で手あらいをするさっちゃん。言われなくても、ちゃんとせっけんをつかっている。
土間から上がり、はしら時計をかくにんすると三時を少しすぎたぐらいだった。こたつの上にはおにぎりのさらがおかれていて、数えてみると三角おにぎりで十コある。お昼ののこりのセリごはんを母さんがにぎっておいたのだろう。
「と、いうことは。セリごはんのおにぎりがおやつかぁ」
ぼくはべつにかまわなかった。でも、さっちゃんにすすめていいものか。なにか、おかしの方がいいんじゃないだろうか。
「えぇと。ほかにおやつは……」
さがしていると、さっちゃんが上がってきた。土間にかけてあったタオルに気がついて、手をふいたようだった。
「わぁっ。セリごはんのおにぎりだぁ」
さっちゃんがうれしそうな声を上げる。
あれっ? ひょっとして、いやがられてはいないのかな。
「おにぎりが今日のおやつみたいなんだけど。いいかな?」
おそるおそる聞いてみる。
「うん。セリごはんのおにぎり大すき」
と、さっちゃんがはしゃいだ。
……よかった。あんしんした。
さっちゃんをすわらせて、小ざらを持ってくる。おにぎりをとりわけてあげた。なべにさけかすのあまざけがあったので、あたためてそれも出した。
はしもわたしたけど、さっちゃんは手づかみでおにぎりをほおばった。さっちゃんがそうしたいのならべつにいいんだけれど……。
「おいしい?」
「うん。おいしいよ。まだ少しあたたかくて、おばぁちゃんが作ってくれたのと同じあじがする」
さっちゃんは、えがおをむけてうなずいている。
「ふしぎ。どうして、同じなの? にぎり方もそっくり」
「さあ。どうしてかな?」
と、首をかしげてみせたけれど。
母さんが作るセリごはんの具はセリとあぶらあげだ。さっちゃんのおばぁちゃんもセリとあぶらあげしかつかわないのなら、大体にかよったものになるんじゃないだろうか。にぎり方は――手が同じぐらいの大きさで力かげんが同じだから、とか?
……あっ、そうだった。
考えていると、七海のことを思い出した。おやつによばないのはマズい。
「ちょっと七海をよんでくるよ。おにぎり、すきなだけ食べていいからね」
「うん。ありがとう、直太お兄ちゃん」
言って、さっちゃんはごはんつぶのついた手を小さくふった。
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