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ある朝
#2
年月は経ち、私は高校に進んだ。
ドン太が私に吠えるのは、相変わらずだった。
しかし、その頃になると私も、吠えられることに慣れっこなっていて、ワンと吠えられると、私も、ワンとマネして吠え返すようになっていた。
そうすると、ドン太も負けじと、ワンと吠える。私もワンと言う。しかし、永遠にそんなことをしているわけにもいかないので、どちらかが根負けしてやめた。
勝敗としては、ドン太の方が、勝っていた。
なぜかといえば、通りかけた近所の人や近隣の窓から、呆れた顔で私を見つめる視線に耐えかねたからだ。
同調圧力。
私はいつも、ドン太に向け中指を立て、ネバギバ、と捨て台詞を吐いて、立ち去った。
そんなある日、悲しい知らせが私に届いた。
ドン太が、死んだのだ。
母が言うには、一年ほど前から心臓を悪くしていて、薬を投与していたようだか、年齢も年齢だということもあり、体力がついていかなくなり、ある朝、息をしなくなったのだという。
もう、ドン太の吠える声は聞けない。
そう思うと、胸にポッカリと穴が空いたような寂しさが私をブルーにした。
あまりに長く吠えられていたし、あまりに長く吠えていたし、吠え合い合戦をするのは日課のようになっていたから、ドン太の死は、私が思う以上に、精神に手酷く痛みを与えていた。
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