並木道〜病める時も、健やかなる時も、あなたと〜

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「塔子さん、お茶を淹れたよ」 洗濯物をベランダに干した私に、実さんがティーカップを持ってくる。だが、その中身を見た瞬間、私は「実さん」と声をかけた。 「実さん、茶葉を入れるの忘れてたでしょ?」 「あっ、ごめんね。忘れちゃってたみたいだ」 実さんは、茶葉やコーヒー豆を入れ忘れることが多くなった。マグカップやティーカップにはただのお湯が入っていることが多くなり、私は不安になってしまう。 (一体、どうしたんだろう……) 不安が大きくなっていく。実さんに対する違和感は、だんだん大きくなっていった。 ある日、実さんに夕食を作るのをお願いした。しばらくして様子を見に行くと、実さんはカレーを作っていた。でもカレーは昨日、私が作ったメニューだ。 「実さん、カレーは昨日も食べたよ?それにカレーに入れてるこんにゃく、煮物にするって言ってたじゃない」 私がそう言うと、実さんはカレーを温める手をピタリと止める。そしてゆっくりと私の方を向いた。 「塔子さん、僕、病院に行くよ。最近おかしいよね」
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