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「お父さんが心から望んでいることはきっと、お母さんが笑って幸せに暮らしていくことだよ。自分のせいで疲れ切ったお母さんと一緒にいることをお父さんはきっと望んでない。それに、「一緒にいる」って物理的にそばにいることじゃないと思う。どんなに離れたところにいても、お母さんの心の中にお父さんがいる。それも「そばにいる」ってことなんじゃないかな?」
施設に入れるのはお父さんを捨てるんじゃない。お父さんとお母さんの幸せのためでもあるんだよ。
美羽はそう言い、私を抱き締める。堪え切れなくなった私の目から、涙が零れ落ちた。
桜が綺麗に咲いたこの道を、私は実さんと歩く。今日は実さんが施設に入所する日。この桜並木の近くにある施設に入所することが決まった。
「実さん、私は忘れないから。実さんはもう全部忘れてしまったけど、私は忘れないから。実さんが遠くへ行ってしまっても、私たちはずっと夫婦だからね」
実さんの目は私に向けられることはない。ただ桜の花を見つめている。私は実さんの肩についた花びらを取り、笑顔を向ける。そして、今まで一度も言ったことのなかった言葉を口にした。
「愛してます」
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