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互いに微笑み合った後、また歩き始める。その時に私は言った。
「もしよかったら、今夜弾いてほしいです。エルガーの愛の挨拶」
「もちろんだよ」
繋いだ手に互いに力が入る。これからは恋人じゃなく、家族として生きていく。実さんを支えてあげられるのか、幸せにしてあげられるのか、正直まだ少し不安だった。でも、さっきの誓いを聞いたら、「大丈夫だ」って何の根拠もないのに思えてしまったんだ。
家族となった私と実さんだけど、特に大きな変化はないまま日が過ぎて行った。家事は料理は交代制で、掃除や洗濯は分担性を取り入れている。実さんは一人暮らししていた時期が長く、私より料理などが上手で驚いたくらいだ。
二人でお金を出し合って防音室のあるマンションに引っ越して、夜は実さんのフルートを聴いて仕事での疲れを癒やされる。時々、実さんが在籍している楽団の定期演奏会にも足を運んだ。
「モーツァルトの運命、すごくかっこよかったよ!」
「そう言ってくれると嬉しいな。たくさん練習した甲斐があったよ」
定期演奏会の帰り道、私は実さんのフルートを褒めちぎりながら歩く。定期演奏会の帰り道は、いつも桜並木の道を通る。
季節はもう冬。桜の木を見上げても葉っぱはない。でも、春になったらまた綺麗な花を咲かせてくれるんだよね。
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