若手医師の会

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 コンコン、とドアがノックされる。 「はいよ」  と精神科の助教が軽く返事をした。扉を開けた人物を見たとたん、椅子から跳ね起き、お辞儀をする。伸明も、若手も立ち上がった。愛もつられて背筋を伸ばし、一礼する。 「やあみんな。ご苦労さま。若いうちにどんどん勉強することは名医になる近道だ。一番の近道は患者さんに教えてもらうことだけどね。経験と知識は持てば持つほどよい」  明るい笑顔の壮年の医師だった。愛には見覚えがある。薬の情報提供で各医局を回るため、主だった人物の顔と名前は暗記している。 「金子准教授、いつもお世話になっております」  愛の言葉を皮切りに、医師たちが「お疲れ様です」とハミングした。 「やあやあ、さっきドーナッツを買ったんだ。僕一人じゃ食べきれないから、みんなにプレゼントするよ。脳の疲労には糖分が一番だ」  金子准教授はニコニコしながら入室し、いい匂いのする紙袋をテーブルの上に置いた。 「今日は飼育動物の世話をして帰るよ。戸締り、よろしくね」  そう言って、楽しそうに退室する。 「おいマジかよ。実験動物の世話なんて、下っ端の研修医にやらせればいいのに」 「医局員にとっては神ね」  女医が包みを開けながら、驚きで目を開いた。 「金子准教授は、神経内科の医局員と患者にとっては神だよ」    精神科の助教がつぶやいた。 「下々がやらなきゃならない雑務を嫌な顔ひとつせずやってくれる。休日にも、熱心に入院患者の顔を見に来る。でも、そんな人物だからって、『本物の神』にはなれないと思う。なにせ研究成果が少ないからね。大見教授が簡単に教授の椅子を禅譲するとは思えない」  国立大学病院の、教授選とはなんと過酷で理不尽なんだろう。愛も出身大学で教授選を眺めたことがあるが、教授のお友達や弟子の都合で、すんなり決まっていた。 「紅茶いれたよ」  小児科レジデントが、勝手知ったる様子で、神経内科の備品を使ってお茶をいれた。ティーバッグだが、温かな香りがする。 「中日本さんもどうぞ」 「いえ、私は職務上、」 「せっかくいれたんだから、冷める前にどうぞ」  愛はドーナツは固辞したが、紙コップの紅茶は好意に甘えることにした。一口すすると、ふくよかな香りのする液体が喉をうるおす。  若い医師たちがドーナツに群がった。みな食べっぷりがよい。ものの数分で紙袋の中身は食べつくされた。
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