最初の試練

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「経口投与なのがいいね。注射だと面倒だから」 「変な副作用だなあ。それとも、元々被験者の男性がゲイ傾向にあったんじゃないのかな」  医師たちのざわめきが聞こえる。宣伝は上々だ。 「うん。面白かった。今度は、泌尿器や、産婦人科とか、生殖医療の研究チームにプレゼンすればいいと思うよ。大見が推薦していたと言えば、若いきみでも何十人と、集められるだろう」  教授が相好を崩した。  大成功。達成感が胸にこみ上げてくる。  愛は気合を入れ直して、次のスライドの表示ボタンを押した。  題名は、 『山波におけるクリニックについて、抗てんかん薬カルバマゼピンの、先発品とジェネリック医薬品の同等性評価』  途端に、大見教授の顔つきがこわばった。会議室に集まった医師たちの、和やかなムードが一変する。水を打ったように会場が静まりかえった。  愛は緊張で、マイクを持つ右手が震えてきた。あわてて左手でさらに握り、動揺を悟らせないようにつとめる。 「こちらの表をご覧ください」  愛はスライドを映した。  山波で開業するクリニックに、抗てんかん薬を、先発品、中日本製薬のジェネリックを無作為に割り振ったものだ。二つの薬剤が及ぼす効果をプロットしてある。線グラフはほぼ重なりあっており、統計的な効果の違いは見られないという内容だ。 「N(被験者)=84(人)じゃねえ」  と、会議室の中ほどからやじのような声が上がった。 「すみませんが、ご質問は挙手にてお願い申し上げます」  愛は必死に司会進行をする。  40代だろうか、貫禄のある医師が手を上げた。 「スライドにはランダム化したってあるけれど、ブロック別にはしていないんでしょ?」  痛いところを突かれた。 「それは、患者数が少ないため、できませんでした」  ランダム化比較試験には一つの弱点がある。MR認定試験で学んだ、ものすごく簡単な説明が頭に浮かぶ。  治療薬AとBがある。投与する患者は、20歳が42人と、80歳が42人。ランダム化、つまりくじ引きで投与する患者を決めると、、治療薬Aに20歳42人、治療薬Bに80歳42人が割り付けられる可能性がある。  その場合、「若いからすぐに治ったんでしょ」とか、「高齢者は薬の排泄が遅いから、よく効いたように見えるんでしょ」というツッコミの余地が生まれる。  そういう文句がつかないように工夫された試験がブロック別、となる。  今回のカルバマゼピンの同等性試験には、患者数が少ないため、ブロック別されていない。
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