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暗い影
あの夜から数日後、
七星は、昼間の仕事を終え職場を後にした。
「七星、愛してる」仁の声を思い出す七星。
笑みを浮かべると、アパートに向かって
歩いて行く。
その様子を車の中から見つめる男、
男は、七星を見つめるとニヤリと笑った。
ここは、七星が務める風俗店、
黒服のスタッフが言った。
「支配人、レイナちゃん、
暫く仕事休むそうですよ」
「そうか。わかった」
「それから、最近来ませんね。
レイナちゃん指名の彼」
「そうだな」
「でも、代わりに、ほら、以前レイナちゃんに
付きまとっていたあの男が、
レイナちゃんに合わせろって
しつこくて困りましたよ」
「そうか、念のため、レイナちゃんに気を
つけろって連絡しておいてくれ」
と支配人が言った。
一方、仁がスマホの画面を見て溜息をついた。
「何で、既読スルーなんだよ。
いきなりしかと? 」
仁は七星のラインが既読にならないことを
気にしていた。
翌日、
「支配人、レイナちゃんと連絡取れません。
ラインも既読スルー どうしちゃったん
でしょうかね? 」と黒服のスタッフが
言った。
「なんか、おかしいな」
と支配人が口にした時、
「あの、すみません」と男性の声がした。
支配人とスタッフが振り向くと、
裏口に仁が立っていた。
スタッフが仁を見て言った。
「あっ! お客様、正面入り口から
お願いします」
「ちがうんです。今日はその…
客じゃなくて、その、レイナちゃんを」
「申し訳ありません、レイナは暫く
休んでいます」と支配人が言った。
「休んでいる? 暫く? 」と仁は驚いて聞き返した。
「ええ、かれこれ、一週間くらいでしょうかね。
私達も連絡がつかなくて、既読もつかないし、
いい人でも見つけたんでしょうかね」
とスタッフが言った。
動揺する仁。
それを見た支配人は、
「本当は規則違反なんですがね、
我々も忙しいので代わりにレイナの
様子見て来てくれますか? 」
と言うと、仁に七星の住所を教えた。
仁は教えてもらった七星の住所に辿り着いた。
そこは、二階建てのアパート。
七星は二階の一番端の部屋に住んでいた。
カンカンカンと鉄の階段を上る仁の足音。
二階の端の部屋のドアの前に立つと、
コンコンコンとドアをノックした。
中からの応答はなく、仁がドアノブを
回すと、カチャリと音がした。
「鍵が開いてる」
仁はそう呟くと玄関のドアをゆっくりと開けた。
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