お礼はここで

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お礼はここで

「指名ってあなただったんだ」 とレイナが言った。 「何か、気になってさ」 「お礼、しなきゃね」  とレイナが仁に近寄って来る。 「何?」 「お礼する。今から、ここで。 だから、脱いで」 と言うとレイナは自分の薄衣を脱ごうとした。 それを見た仁は、彼女の手を止めると優しく言った。 「俺は、脱がないよ、だから、  君も脱がなくていいよ」   「えっ? そう、あなた、脱がない派  なんだね。じゃあ、そのままで」  と彼女は、仁をソファーに押し倒した。  彼女に押し倒された仁が彼女を見上げて  言った。 「ちがうよ。だから、しなくていいの! 」 「しないの? 」 「そう、しないの」 「何も? 」 「そう。何も」 数秒の間沈黙が流れた。 二人は、見つめ合うと「ふふふ」と笑った。 「ねえ、レイナちゃん、  どけてくれない? 重いよ」 「あっ ごめんなさい……って、 私そんなに重くない」 と言うと彼女は仁の身体の上から離れた。 仁は、バスタオルを彼女にかけると言った。 「お礼、お礼してくれるんだよね? 」 「うん」 「じゃあさ、また、時間まで俺と話しようよ。  お礼はそれでいいよ」 「この前みたいに? でもそれじゃ悪いよ」 「じゃあ、会わない?昼間に、  昼の時間に君に会いたいな。  この前の公園みたいなところで。  ほら、息子ちゃんも一緒に」 「息子ちゃん? って誰? 」 「この前、公園に一緒にいた男の子」   それを聞いた彼女がクスっと笑うと、 「あの子は、私の子供じゃないよ。  あの子は、姉の子供、私の姪っ子  たまたま、一日預かってただけ」 それを聞いた仁は、 「そうなんだ。でも、自然の中で  会いたいな」 「わかったよ。どうせ、暫くお店休むから、  この腫れが無くなるまでは無理だしね。  それに、私 お店に入るのは木・金・土の  三日間だけだから。  日曜日とかならいいよ」  と彼女が言った。 「わかった。じゃあ、  来週の日曜日なんかどう? 」 「いいよ」 「取り合えず、連絡先交換ね」 と仁はポケットからスマホを取り出した。 「本当は、違反なんだ。  お客と個人的なやり取りは」 「だから、俺は君を指名して、  これからは指名客になるよ。  なら、問題ないでしょ? 」  と仁が笑った。 今夜も終了時間を知らせるインターフォンが 部屋中に響き渡った。 「ありがとうございました」 「こちらこそ。また指名するね」 「お客様、レイナを今後ともごひいきに」 と支配人の後藤が言った。 キラキラと光るネオン街を一人歩く仁、 見上げた空には、月が昇っていた。 その周りに見えるはずのもの… 「ここじゃ、星は見えないな」 と仁は呟いた。
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