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昔の記憶
仁が奉遷会事務所を飛び出してから
2日が経った。
夜の街を彷徨うように歩く仁。
顔を上げると、客引きの女や黒服の男たちが
今夜もネオン街を盛り上げる。
仁はその光景を見て含み笑いをした。
「安藤君」聞き覚えのある声に
仁が振り向いた。
「平所長?」
仁の後ろに、天体観測所所長、
平が立っていた。
「どうして、こんなところに?」と仁が驚いた
口調で言った。
「安藤君、少し話ないか?」
そう言うと平は仁を連れて近くの公園に歩き出した。
公園のベンチに座る仁と平。
「平所長 お久しぶりです。俺、その……」
約一年ぶりの再会であった。
ニコリと微笑むと平が言った。
「昔、私が君くらいの年齢の時に
この街でチンピラ数人に絡まれた時、
ある男に助けられた。
見た目はすごく派手で、
でもその男は、傷だらけになりながらも
チンピラを追い払ってくれた。
私は、彼を丁度この公園に連れて来て
お礼に缶珈琲を手渡した。
彼は、僕の目を見るとニコリと笑って
珈琲を飲んだ。
私は、彼のその笑った顔を見て、
この人 見た目は、派手で怖そうだけど、
悪い人ではないと思ったんだよ。
しばらくこの公園で色々な話をしたんだよ
不思議と彼とは話が合ってね。
私が天体観測所に勤めてるって言ったら
観てみたいって言うからさ、彼を夜の観測所 に案内して星や月を見せたんだよ。
彼は感動していたな。それから、彼は私が
残業をしていると時々ふらりと観測所に現れて星や月を見ながら色々な話をした。
楽しかったな。そのうち彼は、私の後輩を
好きになって付き合うようになった。
ある時、彼が観測所にやって来て、
彼女と一緒になると報告を受けた。
私は心から喜んだ。
それからも、彼は時々観測所に来ては、
生まれた子供のことを楽しそうに
話してくれた。
子供が星や惑星、天体が大好きだと
いうことも。
そして、ある時、彼は一言、これからは
もうここには来れないと言ったんだ」
平の話を聞いていた仁は驚いた。
「平所長、それって」
仁の表情を見た平が話を続ける。
「私は、暫くして、彼が
『奉遷会の若頭 安藤勇二』であることを
知った。そして彼女も僕の前に二度と現れることはなかったよ」
「平所長と父が知り合いだったなんて」
動揺をかくしきれない仁。
「でも、所長が何でこんな場所にいるんですか?それもひとりで」と仁が平に聞いた。
平は仁の顔を見ると、ゆっくりと話し出す。
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