これから

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 「安藤君、君は退職してないんだよ」   平の言葉に驚く仁。  「えっ?どういうことですか?   俺が退職していないって」  「君は、休職扱いになっているんだ」  「休職扱い? 何で」と仁が平に聞いた。  「一年前、君が私に退職の意向を申し出て   くれた後に、君のお父さんから連絡が   あった。  君の退職を一年延ばしてほしいと」 「父が? どうして……」 「彼は、一時でも君と同じ世界に  親子でいたかったそうだ。  君は、優しすぎる。  だから夜の世界には向いていないと。  裏社会では、その優しさが命取りになると。  それを聞いた私は、安藤君、君を  一年間休職扱いにすると決めた。  まあ、表向きには退職と言ってあるがな。  理由が、家庭の事情とか曖昧だが。  それから、君の先輩と同僚には君が  休職扱いになってることを伝えている」  それを聞いた仁、  「なんだよ、父さん、カッコつけやがって」  仁の目から涙が溢れた。  仁は手で涙を拭った。  「安藤君、お父さんと今こそちゃんと   向き合って、君の本当の気持ちを伝える   べきじゃないか」と平が言った。 仁は、平に一礼するとその場から走り出した。    仁の後姿を見送る平、鞄からスマホを取り出すと電話を掛ける。 「もしもし? 喜佐子さん? 今から帰るから。 えっ? ここ? ネオン街じゃないですよ」と平が言った。    ネオン街を走る仁、 ネオン街に背を向けて歩き出す平。 奉遷会事務所前に辿り着いた仁は、 空を見上げると、一気に階段を駆け上がった。  
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