親子、兄弟、そして仲間の絆

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親子、兄弟、そして仲間の絆

空を見上げた仁は、一気に階段を駆け上がり、 事務所内に駆け込んだ。 事務所内に、勇二、怜央、新谷、三浦。 「うわ~びっくりした。兄貴なんだよ。  突然飛び込んで来て」怜央が言った。 「父さん」    仁の表情を見た勇二、 「あの男からすべて聞いたんだな」と笑みを浮かべた。 「あの男? 何を聞いたのさ?」 と怜央が聞いた。 「父さん、俺、父さんの気持ちに 全然気づかなくてごめん」と仁が言った。 それを聞いた勇二が仁に言った。 「で、お前はどうしたいんだ?」 一瞬、下を向いた仁、ゆっくりと顔を上げた。 「父さん、ごめん。  俺は、天文学の世界に戻りたい。  俺の生きる世界はここじゃない。  天文学の世界で、  俺の選んだ人生を歩んでいきたい。  星七と一緒に」 「仁、それは、奉遷会を抜けるってことか?  この世界から足を洗うってことなんだな」  と勇二が静かに尋ねた。 「ああ、俺はこの世界から足を洗う」 「それが仁、お前が出した答えなんだな」 「そうだよ。これが俺が出した答えだ」  それを聞いた怜央、 「親父、よかったな。  兄貴の口から直接聞けて」   「えっ? なんだよそれ」仁が言った。 「兄貴、  親父は、最初からそのつもりだったんだ。  兄貴が奉遷会に入るって言った時から。  決めてたんだよ。  兄貴をいずれこの世界から  足を洗わせることを」 「余計なことを言うな。怜央」  と低い声で勇二が言った。 「仁さん、我々もあなたの意思を尊重したい。  そして、会長の決定にも従います」  と新谷が言った。  それに頷く三浦。 「兄貴、今後のことは、俺に任せろ」   と怜央が言った。 涙を浮かべる仁、 「仁、彼女を迎えに行け!」と勇二が言った。  仁は、皆に一礼すると事務所を駆け出した。 「あ~あ、行っちゃったよ。親父」  と怜央が言った。 「後のことはお前が何とかするんだろ?」  と勇二が言った。 「まあね、親父もわかってたんだろ?  この裏社会で生きてゆけるのは、  兄貴じゃなくて、俺だってさ」 「そうだな。仁は優しすぎるからな」 「ちょっと~それって、  俺が冷酷に聞こえるじゃん」 「そうか?」と勇二が笑った。  怜央と新谷、三浦は  勇二の表情が、曇り一つなく  清々しく見えたのだった。
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