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ふたりの時間
「レイナちゃん、ご指名です」
黒服のスタッフが彼女に声をかける。
レイナは、嬉しそうな顔をして個室に向かう。
ドアを開けると、仁がソファーに座っている。
「いらっしゃい……ませ」とレイナがはにかむ。
「こんばんは。レイナちゃん」
と仁が優しく微笑む。
風俗店の一室で、仁とレイナは定期的に
会うようになっていた。
とはいうものの、実際は、営業中の店に
仁がレイナを指名する……というもの
仁は週末になると、レイナの店を訪れ、
いつものように色々な話をして時間が
来ると帰っていく。
彼女は、いつの間にか仁が来店するのを
心待ちにするようなった。
仁も、レイナに会うのが楽しみになっていった。
バスタブに体育座りをして並ぶ仁とレイナ。
「レイナちゃん、満天の星空って
見たことある? 」
と仁が言った。
「満天の星空? ないな。
最近、夜に空を見あげる
こともないしな」
「じゃあ、今度 一緒に星空見ようよ」
「一緒に? 星空を? 」
「そう、一緒に 見よう 星空」
仁の優しさ溢れる言葉に、
レイナの瞳から涙が流れ落ちた。
「レイナちゃん? どうして泣いてるの?
俺、なんか悪いこと言ったかな? 」
焦る仁。
「ちがうよ、嬉しかっただけ」
彼女の言葉を聞いた仁は彼女の肩を
引き寄せると、
「来週の土曜日の夜。俺の部屋で見よう星空
わかった? 」
「強引だね」とレイナは呟いた。
今夜も、時間終了のインターフォンの
音が鳴ると、二人で過ごす時間も終わる。
「お客様、いつもレイナのご指名
ありがとうございます。
またのご来店お待ち致しております」
と黒服のスタッフが仁を店から送り出した。
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