大人の社会科見学

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大人の社会科見学

 ここは、ある都市の繁華街、  色鮮やかなネオンが夜の闇を  明るく照らす。 「所長、いいんですか?  こんな場所に来て、  奥さんにバレたら知らないですよ」    仁は酔っぱらう上司の腕を掴んだ。 「いいんだよ、安藤……今夜は社員旅行。  ほら、お前も行くぞ。大人の社会科見学だ」  先輩から腕を引っ張れると仁はとある風俗店に入って行った。   安藤 仁は、天体観測所に勤める研究員、 酔っぱらった所長も先輩も普段はお堅い 研究職。今日は、二年に一度の社員旅行、 いつものお堅い仕事から解放された職員たちは お酒の力も加わり夜の街に繰り出した。 所長と先輩に捕まった仁は、 黒服のスタッフに個室に案内された。 もちろん、こういう店に 来ることが初めての仁、 案内された部屋の椅子に 座るときょろきょろと 部屋の中を見渡した。 「いらっしゃいませ」  若い女性の声がした。 仁が振り向くと、瞳が綺麗な薄い下着姿の女性が立っていた。 「あ、こんばんは」 とそっけない言葉を返す仁。 「お客さん、こういう店初めて? 」 「はい。初めてっていうか、会社の上司に  無理やりに連れて来られて」 「あ~、そのたぐいね」と彼女が言った。 「そのたぐい?」 「そう……よくあるのよね、 社員旅行で社会科見学とか 言われて連れて来られたみたいな? あなたも、そうかな?って思って」 「あたり、その通り」と仁が言った。 彼女は仁の前から歩き出すと、バスタブにお湯を貯めようとすると、 「君……お湯貯めなくていいよ」 と仁が言った。 「えっ? いいいの?」と彼女は仁に尋ねる。 「ああ、何もしなくていいから、  その代わり時間まで話をしないか?」  と仁が言った。  彼女は、一瞬だまりこんだが、 「お客さんがいいなら、それで」 と言った。 「じゃあ、ここで話そうよ」と言うと仁は 空のバスタブに入り、体育座りをした。 それを見た彼女はニコリと笑うと、 彼女もバスタブに入り仁の隣に座った。 ファサッ…… 彼女の身体に大きなバスタオルが 掛けられた。 「寒いだろ? 」と仁が彼女に言った。 「ありがとう」と彼女はバスタオルを  自分の身体に巻き付けた。 二人は、他愛のない話を始める。 星座の話 最近の出来事。 初対面の二人の間には自然と 温かい空気が流れはじめると、 それは、ほんの前に知り合った者同士 ではないようであった。 「可笑しい。あなたの話は楽しいな」 彼女が笑った。 「君、名前なんていうの? 」 笑顔の仁が言った。 彼女の表情が一瞬で現実に引き戻されたかのように変わった。 「私、レイナです」もちろんそれは、 店での源氏名。 その時、終了時間を知らせるインターフォンが 部屋に響き渡った。 「ありがとうございました」 とレイナが言った。 「レイナちゃん、楽しかった」と言うと仁は部屋から出て行った。
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