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先生がワックスをかけてくれた艶のある床に寝そべると、疲れた風を装う。
「こんなに真面目に掃除をしたのは生まれて初めてです。もぉ、ヘトヘト。夕食は、ステーキ専門店でビッグサイズのステーキを食べたいです。もちろん先生の奢りで」
「私は胃弱だから、ステーキは遠慮する。温野菜レストランなら付き合うが?」
「先生って、どこまでもわたしを失望させますね」
「掃除をしていた時間よりもサボっていた時間のほうが長いのに、疲れたフリをしている。そんな生徒に、失望したと言われるとは心外だ」
(げげっ、サボっていたことがバレている!)
鼻歌をうたって誤魔化すと、ユガリノス先生は呆れたようにため息をついた。
そのため息が消えた直後、視界がガラリと変わった。
雨漏りで汚れていた天井が、シミのない真っ白な天井へと変わった。裸電球が豪奢なシャンデリアに姿を変え、天井が二倍以上も高くなった。
驚いて上半身を起こすと、世界が三百六十度変わっている。
手のひらに感じるのはふかふかの絨毯。左を見ると暖炉と本棚とロッキングチェアがあり、右を見るとバーカウンターがある。前方は重厚な両開き扉。後ろには壁一面の大窓。窓の外に広がっているのは、青い湖と美しい森。
「ここは……夢の世界?」
「私の別荘だ。ヘトヘトに疲れているのだろう? 歩けないかと思って、空間移動の魔法を使った」
「別荘……。え? もしかして、今日からここに住むの?」
「君が気に入れば」
「この部屋って、リビング?」
「いや、趣味室だ」
「ああああああ、あの、ちょっと見て回ってもいいですか!!」
「どうぞ」
(趣味室ってなに⁉︎ 趣味をするための部屋がこの世に存在するなんて、びっくりなんですがっ!!)
別荘内を見て回る。
どの部屋も窓の大きい開放的な作りになっていて、湖と、その周辺に広がる森を感じられるようになっている。
大理石の床は光を反射してツヤツヤと輝いていて、迂闊に走るとツルッと転んでしまいそう。
二階に続く階段は幅が広すぎて、両手を精一杯に広げても右側の手すりと左側の手すりを同時に掴むことができない。
白を基調とした内装はシンプルだけれど、それが湖と森林に映えていて、センスの良さを感じられる。
食堂のテーブルは細長く、椅子が十四個も並んでいる。台所の食器棚にあるのはすべて高級メーカーの食器。
足を伸ばして入れる猫足バスタブからも湖が見えるようになっていて、リフレッシュにピッタリ。
お化粧直し付きのトイレは清潔なうえに広くて、お腹を壊しても快適な気分でトイレに閉じこもれそう。
二階はゲストルームが五部屋あり、どの部屋にもシャワー室とトイレが備わっている。
どこもかしこも高級感を全面にだしていて、貧乏が身に染みているわたしは興奮しすぎて心臓が破裂寸前!
「ラテルナお婆ちゃんの言ったとおりだった。先生はお金持ちなんだっ!!」
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