一章 天職検査の結果は……先生の妻!?

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 別荘をひと通り見て回り、エントランスに戻ってくる。エントランスには、先生が魔法で送ってくれた我が家の荷物が置いてある。  家にあったもの全部、先生は魔法で送ってくれたらしい。鼻を噛んで床に放り投げてあったティッシュまである。  わたしは、ゴミは即座にゴミ箱に捨てることを固く心に誓った。 「それにしても、場違い感がひどすぎる。ゴミの山にしか見えない……」  テーブルも椅子もソファーもチェストも台所用品も衣類も本も靴も傘も、すべてが両親との思い出に繋がっている。  けれどこれらは、ただの中古品。骨董品と呼べる価値はない。  別荘にある高級メーカーの家具や品物に、使い古した貧相な物を混ぜてもいいものか悩む。さらには別荘の壁紙が真っ白なので、余計に汚れが目立つ。  わたしはピンクうさぎのぬいぐるみを手に取ると、右耳をピンと立てた。けれど、手を離すとすぐに耳がへにゃっと垂れた。 「今が捨てるタイミングなのかな……」  母は言っていた。  ──物を捨てることは、思い出を捨てることではないのよ。どんな物でもいつかは古ぼける。お父さんはノアナの心の中に生きているのだから、物に執着しなくてもいいのよ。  わかっている。けれどうさぎのぬいぐるみを見ると、お父さんの笑顔と大きな手を思い出す。その手の温かさを忘れてしまうのが怖い。 「やっぱり捨てたくないよ。どうしたらいい?」  足音が近づいてくる。背後から声をかけられた。 「ノアナ。指示してくれれば、それぞれの場所に運ぶ」 「先生……。わたし、やっぱり帰ります。ここにある物全部、アパートに送り返してもらえませんか?」 「別荘が気に入らない? それなら改装してもいいし、他国になるが、別の別荘に引っ越してもいい」 「そういうわけじゃ……んん?」  悲しみに酔いしれていたので、危なく聞き逃すところだった。 (今なんて言った? 他国にも別荘があるって言ったよねぇ! 先生って、超大金持ちっ⁉︎)    ガラクタ同然の荷物のことで先生に迷惑はかけられないから、アパートに帰ります。……そんな、健気でいじらしい気持ちが吹っ飛びそうになる。やっぱりここに住みたいって、声を大にして言いたくなる。  だけどわたしは、ラテルナお婆ちゃんのようには強欲に生きられない。口に出したことを数十秒で撤回するなんてダサすぎる。 「綺麗な別荘で気に入りました。でもわたしは、ここに住むのにふさわしい人間じゃない。遺産整理ができたら、来ます」 「少し、散歩をしないか?」 「でも……」 「外で待っている」  先生はさっさと外に出てしまった。  同意していないのに、どこまでも勝手な人だ。仕方なしに、わたしも外に出る。
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