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春休みになって三週間が過ぎた。
妻体験実習は、自分の衣類を洗濯して畳むという項目を頑張っている。あとはわたしの趣味で、庭いじりをしている。
簡単だし、楽ちんだ。でも思うのだ。
(妻は妻でも、これって単なるグータラ妻なんじゃ……)
食事作り。食器洗い。ゴミ出し。床掃除。玄関掃除。トイレ掃除。お風呂洗い。お風呂のお湯張り。シーツの洗濯。窓ガラス拭き。植物の水やり。電球交換。
全部、先生がしている。しかも魔法を使わず。先生の俊敏さと家事能力の高さを見せつけられる毎日。
あと一週間で春休みが終わってしまう。これでは、わたしの家事能力は低いまま。この先素敵な男性と恋に落ちたときのために、妻スキルを上げたいのに!
こうなったら自主的に行動するしかない。
わたしはエプロンをすると、腕まくりをし、意気込みを声高らかに宣言する。
「今日の夕食はわたしが作るぞ! 妻の道を極めようとする者の本気を見せてやる!!」
ラテルナお婆ちゃんは、わたしの料理を「独創的すぎる。いまだかつて、こんなまずい味に出会ったことがない。あたしが早死にしたら、おまえさんのせいだ」とこき下ろしたことがある。
「でもサラダなら大丈夫。野菜を切って、市販のドレッシングをかけるだけだもん。失敗のしようがないよ」
鼻歌を歌いながら、レタスをちぎり、トマトを切る。それから冷蔵庫と食品庫を探したが、ドレッシングが見当たらない。
「先生ってば、まさか、手作りドレッシング派? もー、凝り性なんだからぁ」
仕方がないので、唐辛子スパイスをたっぷりとかけてみる。
先生が帰ってくるまでにまだ時間があるので、スープを作った。さらには魚も焼いてみた。
「わわっ、すごい! 豪華な夕食ができちゃった。わたしってば、有能な妻」
料理を作り終えた満足感に浸っていると、玄関扉が閉まる音がした。
先生のご帰宅だ。良妻であるわたしはパタパタとルームシューズを鳴らして、玄関まで出迎えに走る。
「おかえりなさい! ……どうしたんですか? 変な顔をしていますけれど、学校で嫌なことでもあったんですか?」
「焦げた臭いがする……」
「どこかで火事でもあったかな? それよりも先生! わたしね、夕食を作ってみたんだよ」
興奮するあまり、つい先生の腕を掴んでしまった。まるでラブラブの新婚夫婦のように、ごく自然に。
先生は驚き、ハッと息を飲んだ。
わたしは慌てて引っ込めるのは不自然な気がして、この行動の説明を試みる。
「妻体験サービス実施中です!」
「なるほど」
「それよりも夕食を作ったんだよ。見て見て!」
先生の腕を引っ張って、食堂に連れていく。
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