二章 お試し妻はじめました

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 春休みになって三週間が過ぎた。  妻体験実習は、自分の衣類を洗濯して畳むという項目を頑張っている。あとはわたしの趣味で、庭いじりをしている。  簡単だし、楽ちんだ。でも思うのだ。 (妻は妻でも、これって単なるグータラ妻なんじゃ……)    食事作り。食器洗い。ゴミ出し。床掃除。玄関掃除。トイレ掃除。お風呂洗い。お風呂のお湯張り。シーツの洗濯。窓ガラス拭き。植物の水やり。電球交換。  全部、先生がしている。しかも魔法を使わず。先生の俊敏さと家事能力の高さを見せつけられる毎日。  あと一週間で春休みが終わってしまう。これでは、わたしの家事能力は低いまま。この先素敵な男性と恋に落ちたときのために、妻スキルを上げたいのに!  こうなったら自主的に行動するしかない。  わたしはエプロンをすると、腕まくりをし、意気込みを声高らかに宣言する。 「今日の夕食はわたしが作るぞ! 妻の道を極めようとする者の本気を見せてやる!!」  ラテルナお婆ちゃんは、わたしの料理を「独創的すぎる。いまだかつて、こんなまずい味に出会ったことがない。あたしが早死にしたら、おまえさんのせいだ」とこき下ろしたことがある。 「でもサラダなら大丈夫。野菜を切って、市販のドレッシングをかけるだけだもん。失敗のしようがないよ」  鼻歌を歌いながら、レタスをちぎり、トマトを切る。それから冷蔵庫と食品庫を探したが、ドレッシングが見当たらない。 「先生ってば、まさか、手作りドレッシング派? もー、凝り性なんだからぁ」   仕方がないので、唐辛子スパイスをたっぷりとかけてみる。  先生が帰ってくるまでにまだ時間があるので、スープを作った。さらには魚も焼いてみた。 「わわっ、すごい! 豪華な夕食ができちゃった。わたしってば、有能な妻」  料理を作り終えた満足感に浸っていると、玄関扉が閉まる音がした。  先生のご帰宅だ。良妻であるわたしはパタパタとルームシューズを鳴らして、玄関まで出迎えに走る。 「おかえりなさい! ……どうしたんですか? 変な顔をしていますけれど、学校で嫌なことでもあったんですか?」 「焦げた臭いがする……」 「どこかで火事でもあったかな? それよりも先生! わたしね、夕食を作ってみたんだよ」  興奮するあまり、つい先生の腕を掴んでしまった。まるでラブラブの新婚夫婦のように、ごく自然に。  先生は驚き、ハッと息を飲んだ。  わたしは慌てて引っ込めるのは不自然な気がして、この行動の説明を試みる。 「妻体験サービス実施中です!」 「なるほど」 「それよりも夕食を作ったんだよ。見て見て!」  先生の腕を引っ張って、食堂に連れていく。  
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