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「うわぁ〜ん!! こんなのってひどいっ! わたしの天職が、陰気でダサいユガリノス先生の妻だなんてぇー! 神様の意地悪っ!!」
検査結果を聞いてわんわん泣いていると、次の検査の人が来ているからと、青年検査官に中庭に連れ出された。
青年検査官から渡された白いハンカチで、頬を流れる涙を拭く。
「ユガリノス先生って、そんなに最悪な人なのですか?」
「わたしが今まで出会った中で一番最悪です! 体が嫌味成分でできているのかっていうぐらいの嫌味男なんです。大嫌いな数学の先生だし、十歳も年が離れているし!」
「大人の男性は包容力がある。君が甘えたいタイプなら、ピッタリじゃないかな?」
「絶対に甘えたくないですっ! 大嫌いだもん!!」
「ちょっと落ち着こう。座ろうか」
青年検査官は、銀杏の木の下にあるベンチへと促した。
春と呼ぶには今日の風は冷たく、太陽が陰っている。
心が落ち着かず、体も冷えていくばかりで、先生の悪口が止まらない。
「わたしと友達はこっそり『モジャ髪』って呼んでいるんです。だって、鳥の巣みたいな頭をしているんだもん!」
「シュリミアさんは、パーマをかけているの?」
「天然です」
「…………」
青年検査官は黙ってしまった。
彼がなにを考えているかわかる。(髪の癖が強いのは、君もじゃ……)と思っているに違いない。
髪の癖が強すぎる、わたしとユガリノス先生。もしも誤って子供ができたら、間違いなく、天パの子が生まれるだろう。
せめてもの救いは、髪の色が違うこと。先生は黒髪で、わたしはコーラルピンク色。爆発する髪を抑えるために、わたしはツインテールに結んでいる。
仲の良い男友達のベルシュはわたしのことを、「頭の左右にピンクブロッコリーを飾っているみたいだ」って冷やかすけれど、わざわざブロッコリーをピンク色に染めないでほしい。
わたしは太ももに肘をついて頬杖をつくと、唇を尖らせた。
「わたしの天職、他にもありますか?」
「一つしかなかった。よほど、ユガリノス先生の妻という天職が向いているのだろう」
「ぼふー! 最悪っ!! モジャ髪の妻って、罰ゲームすぎるっ! 人生終わった。詰んだ。お金持ちになりたかったのにっ!!」
「金持ち……」
青年検査官は額に手をやって、考える顔をした。
「もしかしたら……いや、断言はできない。裾野は広いのだから」
「なんですか?」
「ユガリノス一族って、知っている?」
「ああ、名前だけは。超お金持ちなんですよね?」
「そう。ユガリノス一族は、世界に影響を及ぼす人物を数多く輩出している名家。政治経済金融学問、陸海空の事業、医学、科学、地下資源、貿易、ファッション、芸術、魔物討伐。この世の様々な分野に、ユガリノス一族が関わっている」
「へぇ。先生もその一族の人?」
「その可能性はあるけれど……。ユガリノス一族の上位の家柄なら金持ちだけれど、末端の家柄なら、まぁ、平社員のようなものだから……。ユガリノス先生は、上位の家柄出身という可能性は……」
「先生はお金持ちじゃないよ。だって、サイズの合っていないダボっとした黒服を着ているんだもん。洋服を買うお金がないんだよ。それか、死神コスプレ愛好家かもしれない」
「死神コスプレか。ハハッ! 君っておもしろいね」
青年検査官は、気のいい顔で笑った。
「シュリミアさんは先生を嫌っているようだけど、天職検査でノシュア・ユガリノスの妻という結果が出たからには、間違いなく相性がいい。僕も、君のような明るくて元気なタイプの子は、落ち着いた大人の男性が合うように思うし」
「そうですかぁ? 全然合わないと思うんだけど……」
「教師の顔と、私生活の顔は違うはずだ。まずは、学校以外で会う時間を作ってみたらどうかな?」
「う〜ん……」
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