一章 天職検査の結果は……先生の妻!?

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「妻って……どういうこと?」  ベルシュから、当然であろう疑問が投げられる。 「天職検査で、わたしには妻の才能があることがわかったんだ。逆に言えば、妻の才能しかないとも言える……。えぇいっ! こうなったら、妻の道を極めてやろうじゃないの!!」  わたしは両手で机をバンっと叩くと、勢い良く立ち上がった。  吹っ切れた。迷いは微塵もない。天職結果に従ってみよう! ……ただし、ユガリノス先生じゃない相手と。 「実習内容は『妻』。実習先は『ベルシュパン屋』。これで決まり!! 運命は自分の手で切り拓くのだ。えいえいおー!!」 「なにを突然っ⁉︎ オレ、ノアナのこと友達としか思っていないし!」 「わたしはベルシュのこと、美味しいパンをくれる人だと思っているよ! 他のパンを見るな。オレのパンだけを見ろって言うなら、他のパンに浮気せず、ベルシュパンだけを食べ続けるから!」 「はぁ? オレじゃなくて、うちのパンを気に入っているだけじゃないかよ!」 「そうですけれど、なにか問題でも? ベルシュパン屋のパン、どれも美味しい。大好き。毎日食べられる。これはもはや、愛と呼んでいいレベル」  わたしの人生を方向づける重要な話をしているというのに、ルーチェは腹を抱えて大笑いし、ベルシュは困惑したように顔を擦った。 「パンが好きだって言うならさ。確認させてくれ」 「いいよ」 「どうやってパンを作るか、知っている?」 「簡単簡単。小麦粉を練って、形にして、焼けばいいんでしょう?」 「どうやって小麦粉を練るわけ?」 「ええっ⁉︎ 考えたことがなかったけれど……。両手でこうやって擦り合わせて」  両手を合わせ、前後に動かして擦る動作をすると、ベルシェの頬が引きつった。 「言い方が悪かった。材料を聞いたんだ。小麦粉はそれだけだとサラサラしていて、まとまらない。パンを作るには他の材料が必要だ」 「ああ、材料の話ね。最初からそう言ってよ。えぇと……クリームパンにはクリーム。チョコパンにはチョコ。もちもち白パンにはもちもち。メロンパンにはメロン」 「…………。パンを焼くときの温度は?」 「六千度」 「太陽かっ⁉︎」  ルーチェからツッコミが入る。呆れ顔でため息をつくベルシュ。 「不合格。ベルシュパン屋とは破局だ」 「なんでっ⁉︎」 「パン職人になるには、知識と技術と経験が必要だ。それに、朝早く起きなくてはならない。お寝坊ノアナは、パンを食べる客にしかなれない」 「ガーン!!」  朝に非常に弱いわたし。ベルシュパン屋に嫁ぐ夢は跡形もなく散った。 「まだ残っていたのか」  死神の仮装をしているかのような、全身黒服男が教室に入ってきた。  
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