引き出しの奥の大切な彼女

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 周辺の小学校3校の生徒が集まる中学校。校舎は古いが、初めて見た時は迷路のように感じるほど広く、教室数も多かった。知らない生徒の方が多くても、別に緊張はしなかった。私は私のままでいれば、勝手に友達が寄ってくる。今までもそうだったから。  実際、私のざっくばらんな性格に心を開いてくれる友達は多く、あっという間に仲良しグループができた。しかし、仲良くなればなるほど、いろいろな事も言いやすくなり、私はつい調子に乗ってしまった。臆さず本音を言うのが長所だと言われ続けてきた為、良い事も悪い事も空気を読まずに口に出すようになってしまったのだ。   「茜って毒舌だよね〜」    そんな言葉でさえ、褒め言葉に聞こえた。    ある日の昼休み、友達の1人・菜々美が彼氏と別れたらしく、涙ぐんで話をするのをみんなで慰めていた。中庭の花壇の前が私達のお決まりの場所。傍でキャッキャとふざけ合う幼い男子達をウザそうに睨みつけ、聡美が優しい言葉をかける。   「アイツは見る目がないんだよ。菜々美を振るなんてどうかしてる。別れて良かったのかもよ」   「そうだよ!菜々美はカワイイし、また素敵な彼氏ができるって」    悲しんでいる菜々美の心の傷をこれ以上広げないように、周りの友達は気を遣いながら言葉を選ぶ。私にはそれができなかった。   「でも中1で付き合うとかあり得なくない?」    フラれた菜々美を含め、みんながハッとした顔で私を見るが、(それ以上余計な事を言うな)というメッセージが込められたその視線には気付く事ができなかった。   「本当に好きかどうかも分からずに付き合ってたんじゃないの?彼氏がいる私は素敵、他の子より優ってる。そんな承認欲求で付き合ってたから、長続きしないんだよ。最近、そんな子多いよね〜。ホント、馬鹿みたい」   「ちょっと茜!」    慌てて制服を引っ張られるが、もう遅かった。菜々美は顔を覆って号泣し始めた。はしゃいでいた男子生徒達は、クスクス笑いながらその様子を見ていたが、やがてふざけたように耳を塞ぎながら別の場所へ行ってしまった。   「大丈夫よ、菜々美。茜の言う事なんて気にしないで」   「何でよ、みんなだってそう思ってるんじゃないの?本当の事を言ってあげないと、また菜々美は同じミスを繰り返しちゃうんだよ?」   「いい加減にしなよ」    グループの中で一番体格が良く、まとめ役の美花が割って入る。   「茜には、想像力ってもんがないの?」   「想像力?」   「何でもかんでも思った事を口に出しゃいいってもんじゃないの。こう言ったら相手はどう思うか、ちゃんと考えて話して。アンタの本音は、人を傷付けるだけの凶器になってるよ。その性格、直した方がいい」    頭の中が真っ白になり立ちすくむ私を置いて、みんなは行ってしまった。昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴るが、そこから動けなかった。     何で?私が悪いの?今まで本音を言っても誉められた事しかないのに。本音って良い事なんじゃないの?ウソでも相手を喜ばせる事を言う方がいいの?何が正しいの?    昼休み中のザワザワした中庭が次第に静かになっていく一方、私の心の中は様々な考えが大渋滞を起こし、けたたましくクラクションを鳴らしているかのように、心臓が激しく鼓動しているのを感じた。  
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