引き出しの奥の大切な彼女

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 大急ぎで部屋に駆け込む。ドアを閉めるのと同時に電気をつけると、いつもの見慣れた部屋の光景が広がる。しかし、私はドキドキを抑えられなかった。椅子に座り、机の引き出しの鍵を開け、ゆっくりと引き出す。奥に手を伸ばし、指先に触れた物を恐る恐る取り出した。懐かしい折りたたみの鏡。そっと開いて机の上に置く。そこに映っていたのは、生きる力を取り戻し、希望に満ちた顔。14歳の夏、サヨナラした時に浮かべていた悲哀の表情は完全に消え去っていた。突然別れを切り出され、引き出しの奥に押し込まれたにも関わらず、彼女はずっと、また会える日を願いながらそこで待っていてくれた。私はそれを知っていたのに、ずっと気付かないフリをしていた。   「待たせてごめん。また会えて良かった」    涙を浮かべて微笑む彼女は、昔と変わらず優しい眼差しで私を包んでくれた。この机の引き出しは私の心そのもの。彼女と向き合うのが嫌で、その存在を奥へと隠し、鍵までかけた。だが今、引き出しも心も開かれた。もう私達が離れる事はない。私はこれから、彼女と一緒に生きていく。そう固く誓い、彼女の頬をそっと撫でた。
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