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「そんなわけないよ。ミカちゃんはブスなんかじゃない」
ミカは左右に首を振った。二つに結ったお下げ髪が顔の両側で揺れる。
「だって言ったもん。――くんも、お前はブスだから見たくない。学校に来るな、って」
なぜか、「――くん」の部分だけがよく聞き取れない。
「ひどい事を言うね。でも気にする事はない。君はとっても可愛いよ」
ミカの目からすっ、と光が消えた。嗚咽が止まった。風が止んだ。
「もういいの。もう、こんな世界いたくない。だからミカは……」
突然、強烈な耳鳴りが襲った。頭が割れそうな激痛に僕は目を閉じて蹲った。耳鳴りは数秒で鳴り止んだ。顔を上げるとミカは忽然と姿を消していた。
両側を壁に挟まれた一本道だ、人が消えるはずがない。それに、あの子は何と言おうとしたんだ。考える間も無く、僕は背中を押されて歩き出した。例の風が再び吹き始めたのだ。
――進め。――進め。
また、遠くに何かが見えてきた。今度は人じゃない、犬だ。
腕の中にすっぽり収まる大きさの小型犬だった。茶色の長毛で丸っこい、愛らしい顔はどこか寂しげにも見えた。
短い足でトテトテと歩み寄って来た。僕は膝を着いて犬の頭を撫でてやった。嬉しそうに尻尾を振るのを見て、背中も撫でてやる。ふ、と手が止まった。
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