1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
ゴツゴツと骨ばった背中をしていたからだった。丸っこい姿形は豊富な長毛がそう見せているだけで、本体はガリガリに痩せ細っているのが容易に想像出来た。
「ありがとうございます」
僕は目を剥いて驚いた。犬が流暢な日本語で口をきいたのだ。
「お前、喋れるのか?」
「そんな些細な事どうだっていいじゃありませんか。それよりもっと撫でてください」
些細な事……そうかもな。僕は不思議と落ち着いていた。こんな奇妙な場所にいるんだ、何が起きても取るに足りない些細な事なんだ。
僕は改めて犬の頭に手を載せ、撫でた。
「ああ、懐かしいなあ。この手の感触……」
「なあ、お前、ここがどこだか知らないか?」
犬は気持ち良さそうに目を閉じて、いった。
「お前ではありません。私には〈ポメ〉という素敵な名前があるんです。本名はポメ次郎というんですが……。飼い主さんがですね、私を男の子だと勘違いしてポメ次郎と名付けたんです。ところが後々、女の子だと判明してポメと呼ぶようになったんです。私はどちらの名前も気に入っていましたよ」
「ポメ……?」
僕は思わず呟いた。またも聞き覚えのある名前だった。ポメは喜々として尻尾を振った。
「その名前を呼ばれるのも久し振りです。嬉しいなあ、嬉しいなあ。あ、そうだ。一つ私の昔話に付き合ってはくれませんか。大好きな飼い主さんとの日々です。大して長い話じゃありませんので。撫でながら聞いてください」
ポメはそう言うと、人間の様に咳払いをした。
最初のコメントを投稿しよう!