一本道

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 ゴツゴツと骨ばった背中をしていたからだった。丸っこい姿形は豊富な長毛がそう見せているだけで、本体はガリガリに痩せ細っているのが容易に想像出来た。 「ありがとうございます」  僕は目を剥いて驚いた。犬が流暢な日本語で口をきいたのだ。 「お前、喋れるのか?」 「そんな些細な事どうだっていいじゃありませんか。それよりもっと撫でてください」  些細な事……そうかもな。僕は不思議と落ち着いていた。こんな奇妙な場所にいるんだ、何が起きても取るに足りない些細な事なんだ。  僕は改めて犬の頭に手を載せ、撫でた。 「ああ、懐かしいなあ。この手の感触……」 「なあ、お前、ここがどこだか知らないか?」  犬は気持ち良さそうに目を閉じて、いった。 「お前ではありません。私には〈ポメ〉という素敵な名前があるんです。本名はポメ次郎というんですが……。飼い主さんがですね、私を男の子だと勘違いしてポメ次郎と名付けたんです。ところが後々、女の子だと判明してポメと呼ぶようになったんです。私はどちらの名前も気に入っていましたよ」 「ポメ……?」  僕は思わず呟いた。またも聞き覚えのある名前だった。ポメは喜々として尻尾を振った。 「その名前を呼ばれるのも久し振りです。嬉しいなあ、嬉しいなあ。あ、そうだ。一つ私の昔話に付き合ってはくれませんか。大好きな飼い主さんとの日々です。大して長い話じゃありませんので。撫でながら聞いてください」  ポメはそう言うと、人間の様に咳払いをした。
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