一本道

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「あれは蒸し暑い夏の日でした。私は最初の飼い主さんにコンビニに連れて行かれ外にリードを繋がれたのです。私は律儀に飼い主さんが戻るのを待ちました。私の様な長い毛の犬種には過酷な暑さで、水もありませんから、意識が朦朧としてきて、何時間か経ってから、捨てられたのだと理解しました。やがて気を失ってしまったのです。  気がつくと私は中学生の男の子に抱き抱えられていました。あの優しい眼差しは今も忘れません。そう、その男の子が私の大好きだった第二の飼い主さん、――さんでした」  まただ。また、「――さん」の部分だけが抜け落ちて聴こえる。 「――さんはご家族の反対を押し切って、私を引き取ってくださいました。それからの毎日はまさに夢のような日々でした。美味しいご飯をお腹いっぱい食べ、――さんと遊び、――さんに抱かれて眠る。こんなに幸せでいいのだろうか、なんて思ったくらいです。でも――」  ポメの声色が暗くなった。尻尾を振るの止め、立っていた耳が垂れた。 「でも、幸せは長くは続きませんでした。――さんは私に飽きはじめ、段々と構ってくれなくなったのです。  散歩に連れていってくれる頻度が落ち、ご飯が忘れられるようになり、私の体が汚れてくるとゲージの中から出してくれなくなりました。ご家族は元々私を迎えるのは乗り気じゃなかったので、お世話などしてくれません。トイレの横のゲージの中で、私は糞尿に塗れ、お腹を空かす毎日を送っていました。  私はみるみる細っていき……、大好きなご主人様がまたあの時の優しい眼差しを向けてくれることを夢見て、眠りにつきました」
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