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いつの間にか、ポメの頭を撫でていた手が止まっていた。ポメがゆっくり顔を上げる。目の周りが濡れていた。
「ありがとうございます。また、――さんに撫でてもらえるなんて」
生気の無い瞳が僕を見る。
僕が何かを言おうとした時、また激しい耳鳴りが襲った。そして、気が付くと僕の前には誰も居なかった。
僕は全てを理解した。
ミカの言う「――くん」と、ポメの飼い主の「――さん」が同一人物である事。その人物が僕である事。
小学生の頃、僕はクラスメイトの女の子をイジメていた。名前はミカ。何がそんなに楽しかったのか、クラスの連中と結託してミカを追い詰めたのだった。ミカはそのうち学校に来なくなり、ミカの机の上には花が添えられた。卒業間際になって、彼女がマンションのベランダから飛び降りたことを伝え聞いた。
中学生の頃、コンビニで捨て犬を拾い、ポメと名付けて飼い始めた。僕はすぐに飽き、ポメへの愛情を失った。狭いゲージに閉じ込め、早く死んでくれないか、と願った。
俺は全てを思い出した。
中学を卒業した俺は、しばらくして裏稼業の世界に足を踏み入れた。汚い仕事をした。クスリの売人、詐欺、窃盗、殺し、思いつく限りの悪事に手を染めた。
俺は死んだ。殺された。
騙し貢がせ破産した女を捨てたところ、逆上して刺されたのだ。我ながら呆気ない終わりだ、と思った。だが、終わってなかった。死んだ後は生前の罪の精算が始まるのだ。
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