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1.プロローグ
「君には幽霊が見えるんですね」
目の前に、高校の制服を着た男がいる。
「僕、全然見えないんですよ。霊とか、そういう不思議な奴って」
男は、照れたように笑っている。
……懐かしいな。
確か、高校二年生のころの記憶だ。初夏だったから、お互いに半袖だ。
教室には誰もいない。白いカーテンが風に揺れて、夕方なのにまだ明るい。昼間に雨でも降ったのだろう、空気が冷えていて気持ちがいい。
男の名前は、銀風龍。中国のハーフで、向こうと日本を行ったりきたりしていた時期があったと言っていた。だからなのか、同級生なのに敬語で話している。タメ口で良いよと言っても、落ち着かないからと敬語のままだ。
「……イン君は、変だと思わないのか? 俺のこと……」
記憶の中の自分が喋る。この頃はまだ、苗字に君付けで呼んでいた。よそよそしさと警戒心の入り混じった声音。
「思いませんよ。僕は幽霊を触ることができますし」
「そういえば、そうだったな」
幽霊に触れるなんて、見えるよりもよっぽど変わっている。だけど実際に、俺は彼が幽霊に触れた瞬間を見たんだ。この目で、確かに。
「大神君。幽霊に襲われたら、いつでも僕を呼んでくださいね」
「……まあ、うん」
返事はしたものの、幽霊に襲われるなんて事はめったにあるものじゃない。
そう思っていたんだ。
……あの日までは。
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