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しかし、寺岡は4日後に死亡した。
死亡者数が激減した日から1日も経たないうちに、感染が激増し、新たな症例が発見された。それによって研究を進めていた最中であった。
死因は今のところは不明。彼は寝ている間に死亡していた。
死因は不明とされているが、幸せそうな表情で息を引き取っていたことから、幸福脳炎であると予想された。
そして彼の娘も、彼が死亡する数時間前に死亡していたのだ。
彼の助手が見つけた寺岡の手記。
それはその後幸福脳炎の解明へと繋がり、そして世界を更なる絶望へと導いた。
▽
再会、オキシトシン→ウィルス?が反応
→幸福脳炎
直接会わなければ発症しない
→画面越しでも発症?
※突然変異でこの条件が変わらない内に抑え込みが必要
彼の説を裏付ける報告書も一緒に置かれていた。
有名人に会って亡くなった大学生。
その大学生の家族に許可を取って携帯電話を解析したところ、4年前に同じ有名人と会って写真を撮っていた。それからその有名人のファンとなり、再会を夢見ていた。一緒にいた他3人の大学生は初めて会ったとのことだった。
次の事例はヨガ教室で急変した女性。
彼女の夫から聞いたところ、夫婦生活は冷めきっており、ただ同居人同然の関係性となっていた。しかしヨガ教室に通うようになってから化粧や服を新しくするなど変化があった。
ヨガのインストラクターの30代の男性に寺岡の仮説を伝えた上追及すると、罪悪感にかられたのか彼女との関係を話し始めた。
その男性インストラクターと死亡した女性は肉体関係にあり、男性の方は割り切った体の関係だけで特別な気持ちはなかったが、女性側はそうではないと薄々気づいていた、と。
女性が死亡した日は、インストラクターが別の仕事でヨガ教室を1ヶ月ほど空けていた後、久々に教室に行った日だった。
そのことは女性ともSNSでやり取りしており、おそらく女性は会うのを楽しみにしていただろう、ということだった。
その他にも再会によって死亡したことを裏付ける症例を数多く研究し、この仮説をより明確なものにしていたのだ。
画面越しに顔を合わせるなどしても発症しないことから、直接再会したときにのみ発症することを突き止めたのだ。
しかし彼がその仮説を発表した1日後、画面越しで顔を合わせただけで死亡した例が頻発し始めた。
彼は確信した。
進化したと。
直接だけでなく、その再会したい対象を視界から取り込んだだけでも発症するようになってしまったのだと。
それはつまり、視神経からその対象を認識すれば脳が反応して発症するということだ。
感染を増やすには真っ当な進化だ。これならば爆発的に感染を増やすことができる。
そしてその突然変異を受け彼が懸念したのが、想像による発症だった。
理論上では十分考え得る進化。
脳の反応によって発症するのであれば、再会したい者と再会を果たした想像や夢だけでも発症する可能性がある。
この寺岡の仮説は瞬く間に各国の研究所に共有され、“再会性幸福脳炎”として研究に大きく貢献することとなったが……
時はすでに遅かった。
共有されたときには世界人口の4割が死亡。
寺岡の死後6日の間に8割が死亡した。
生き残ったのは、人や社会との関わりを持たない独り身の者のみ。
その中でも、アイドルや芸能人、スポーツ選手、アニメやゲームのキャラクター、動物、旅行地などにも全く興味を示さないような人物だった。
何に会っても幸福感を見出さない人種は発症から逃れ生き残ったが、人類が再度勃興することは絶望視された。
幸福脳炎による死亡者の数は極端に減ったが、社会システムが崩壊した人類はこれから滅亡していくことになる。
この再会性幸福脳炎は人類で最後に発見された病名となった。
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