誰がつくるか、誰と食べるか。

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「できました! どうぞ」  ようやく智から呼ばれ、ハルが食卓につく。  テーブルにはカレーとサラダ。時間のわりにこれだけか? と思えなくもないラインナップだが、よくよく見れば、食べれば、その理由がわかる。  市販のルーを使わずに作ったカレーはバターの香りが良く、ヨーグルトとトマトの酸味で『辛いだけでないカレー』になっているし、ほろほろのチキンや程よい噛み応えを残した根菜類は、じっくり煮込んだからこその食感である。 「うんまっ!」  恐ろしいスピードで飲むように完食したハルはすぐさまお代わりを要求、智は嬉しそうに二杯目を提供した。 「よかったです。料理上手な人に振る舞うのは勇気が要りますね」  ハルの反応にほっとした智が、ようやく笑顔を見せた。 「いやほんまマジでうまいわ。何杯でもいけそう」 「ふふ。まだまだありますからね」 「えーちゃん、実は料理得意なん?」 「え、全然ですよ!」 「ほななんでこんな本格的なカレー作れるん」 「それは――」 遡ること一週間ほど。  たまたま通勤途中、会社近くで手渡された一枚のビラ。よく見ると料理教室のものだった。こういうものは女性が通うものなのだろう、とゴミ箱に入れようとしたが、捨てる前にもう一度よく見ると裏面には男性用コースも載っていた。  特に料理に関心があるわけではない。どちらかというと面倒、億劫、といった感情を持つ智だが、チラシの煽り文句に目を留めた。 『大切な人に手料理を振る舞ってみませんか』 『日頃の感謝の気持ちをあなた手作りのお料理で』  母の日が近いので、おそらくそこをターゲットにしていると思われる。だが智は違う意味のメッセージとして受け取った。幸い一度限りのレッスンだったし、価格も手頃だったため、思い立ったらなんとやら、その日の会社帰りに申し込みに行った。  そこで学んだのが、このカレーである。実習中は自宅に帰っても一人で作れるようにと、調理をしつつも必死でメモを取った。相変わらず丁寧すぎて手が遅く、同じグループの人には迷惑をかけてしまったけれど。
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