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はじまりっていつも突然よね
何でもない午後の昼下がり。私はコーヒーの入ったカップを片手に、ボーっと窓の外を眺めていた。空にはぷかぷかと白い雲が浮かび、ただただ平和を実感する。
私はふぅと一息つき、キシッと軋む木の椅子に身体を預ける。顔事ごと視線を天井に向けてもいつもと変わり映えの無い景色。
「暇ねぇ……」
「あら、そんなに暇なんですか?」
「うわぁっ!?」
突然の景色の転換にバランスを崩しかけた私は、素っ頓狂な声と一緒に思いっきり自身の翼を広げる。カップのコーヒーは零れなかったものの、抜けた数本の羽はヒラヒラと宙を舞い、ふわりと木製の床に落ちた。
「ちょ、相変わらず突然に現れるわね」
「ふふふ。そちらこそ、相変わらずいいリアクションですね」
私と天井との間にニュッと顔を差し込んできたのは、私の親友であり、唯一逆らえない恩人でもある白夜だった。
無地の白い和服に長く煌めく銀色の髪、人形のように整った顔立ちは……なんだろ、なんかムカついてきた。
そんな彼女は頭の上の三角の狐耳をピコピコさせながら、私の驚き様にクスクス笑う。
「うっさい。コーヒーこぼすとこだったじゃない」
「あらあら、それはごめんなさいね。それにしても……」
と、彼女は私の向かう机の上に置かれた一冊のノートに目を向ける。
「真っ白ですね。何か書こうと思ってたんですか?」
「まぁね。最近暇だったし、なんか物語でも書いてみようかなって。まぁ、文才なんてないし、面白いものにならないかもしれないけど」
「ふふ、そんなに自分のことを卑下しなくてもいいのに。あっ!!」
そこで彼女は軽く手を叩くと、ニコニコしながら私に顔を向ける。
「それなら私の身の上話とかどうですか? 妖の生い立ちなんて、きっと現実味なくて面白いと思いますよ。所謂ファンタジーってやつです」
私は「はい?」と答えつつ、コーヒーを一口すする。
彼女とは長い付き合いだが、そうと思い返してみれば、確かに彼女の身の上話など聞いたことはなかった気がする。それは暗に聞くのを躊躇っていた部分でもあるのだけど。
私はカップを置いて傍に置いてあったペンに持ち替える。
「数百年って一緒に居るのに? 今さらあんたの身の上話聞かされるの?」
「ふふ、その割には言葉と行動が合っていないようですが?」
そこで私達はお互いに笑い合う。
何でもない午後の昼下がり。私は白夜からの話を熱心に聞いてはメモしていく、気分はさながら新聞記者のそれだった。
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