0人が本棚に入れています
本棚に追加
こんな感じでどうかしら?
白夜の話を聞きながらメモした内容を元に、書いては消して、書いては消してをしだしてどれくらい経っただろう?
もはや日はどっぷりと沈み、それこそ綺麗なお月様がとうに夜空に昇っている。私はペンをコトリとおいて、グイーっと背を伸ばした。
「くはーーっ!! 疲れたぁぁぁぁ!!」
あまりにやったことのなかった作業に全身が凝り固まっていたのだろう。体の節々からコキコキと小気味よい音が鳴る。
ん~~。ちょっと気持ちいいかも。
集中していると、時間という概念を置き去りにする現象はいつになっても変わらない。実に不思議なものだ。
「ふむ……」
それにしても、と私は自分の書いたものに目を向ける。何となく原稿用紙2~3枚分くらいにはなっただろうか?
う~ん。なんだろう、この達成感!!
良く分からないやり切った感を目の前のものからひしひしと感じる。「そんなもんで?」と思う人も居そうだが、むしろ「そんなもんで」だと思う。
「おや、いいものは出来ましたか?」
「ちょーーっ!?」
私は不意にかけられた声にビクッと飛び上がり、バッ!! と翼と共に書いたもの覆い隠す。
「またあんたはそうやって!! 心臓に悪いじゃない!!」
「ふふ、すみません。驚かせるのが好きなもので」
「それは知ってるけど。うぅ……見た?」
「まぁ、見たといえば見ましたね。思い出していいですか?」
「うわぁぁっ!! いい!! 思い出さなくていいっ!!」
まったく、とんでもない狐だと思う。白夜は。
彼女は一旦その存在を見てしまえば、「思い出す」という行為で本当に思い出すことが出来てしまうのだ。
私は必死になって彼女を止めるものの、彼女はにっこり微笑んで一言告げる。
「なるほど、面白いですね」
「え? 本当?」
「ええ。他人を通してみる自伝、いわば伝記みたいな感じで面白いです」
「伝記って……。あんたまだ生きてるじゃない」
「あら、妖に生死の概念なんてないんですよ。それに、『伝え記すもの』という言葉の意味だけ取れば、伝記はなにも亡者だけのものではないでしょう?」
白夜はそう言って笑い飛ばす。
「さぁ、そんな事よりちょっと遅いですが夕飯にしましょう。続きは何時でも書けますが、今日の夕飯を楽しむのは今しかできないんですから」
「なーに? その意味深な言葉」
「ふふふ。意味深も何も、そのままですよ」
「むぅ……」
私はちょっと消化不良のまま席を立つと、彼女の後に続く。
「あ、この匂いはカレーね」
なんて言いつつ、頭の中では次の構想を練り始めていた。案外、いい趣味になりそうな気がする。
最初のコメントを投稿しよう!