Don’t Be That way

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 雨のせいで、店の窓は濡れていた。  窓際に置かれた観葉植物が僕と彼女を見つめ、それはまるで作り物のようでもあったし生きているようにも思えた。  僕の自意識は必要以上に過敏になっていた。 「お店開いたんだ」  彼女が口を開く。  僕はそれにうん、とだけ返しテーブルにグラスを置いた。無色透明なその器に注がれた水が、愛想笑いみたいな高い音を立てる。 「私のこと覚えてくれてて嬉しい」 「僕みたいな人間は、他に覚えておくことが少ないんだよ」 「なんか……、ちょっとだけ変わったね」  彼女は笑いながらそう言うと、小振りなかわいらしい鞄からハンカチを取り出し、突然の雨に濡れた髪を拭く。 「注文は?」  僕がそう尋ねると、彼女は少し驚いたようにこちらを見た。 「ちょっと、久々に会った元恋人だよ。もっと話とかあるじゃん」  そう言い終えると彼女はテーブル横に立てられたメニューを引っ張り出し、ざっとそれを眺めた後でサンドイッチを指さした。 「これが良いな」 「今日はどうせ人来ないしゆっくりしていってよ」  僕はそう答え、彼女のいるテーブルを後にする。僕ら以外に誰もいない店内に靴の音が響く。 店内ではベニー・グッドマンの「Don’t Be That way」が流れていた。
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