Don’t Be That way

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「コーヒー頼んだっけ」  彼女は今もメニューを眺めながら待っていた。髪はまだしっとりと湿り、僅かに茶味がかったその色を増していた。 「サービス。僕もちょっとひと休みしたかったし」  彼女はコーヒーとサンドイッチを受け取ると、サンドイッチをテーブルの中央に置いた。どうぞ、と言うその仕草は昔と変わらなかった。 「最後に会ったのいつだったかな」  サンドイッチを半分ほど食べたあたりで彼女は僕に聞いた。 「いつだったかな。確か……」 「結婚式だ。思い出した」 「ああ」  大して仲が良かったわけでもない友人の結婚式だった。他人の幸せを記号化したようなそんな結婚式。 「あの時はびっくりしたなあ」 「びっくり?」 「うん。だってあの時も久しぶりだったでしょう、私達」  彼女はまだ止まない雨を眺めていた。 「ふたりともそっくりになっちゃってさ。いくら兄弟でもそんなに似るかなって」  彼女は多分、僕を見て笑った。その笑顔は、いつか僕が関係を持った女性のそれと似ていた。もう名前は忘れてしまったけど。 「こんなに立派に働いちゃってさ……」  物思いにふけるように彼女は店内を見回す。相変わらず客は入らず、ベニーグッドマンのクラリネットが歌っていた。
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