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「岸野さん。川瀬、変わりましたね」
個室のソファに座った佐橋が言った。
「他人に近づくことをしなかったあいつが、
岸野さん以外の奴にあんなにベタベタして。
もう他人が怖くなくなったんですかね」
「僕の教育で、他人は川瀬を傷つける人
ばかりじゃないことを知ったからだね。
でもまさかこんな風に振られるとは
思わなかった」
寂しそうな表情を作り、佐橋を見つめた。
「佐橋くんは、僕のこと好きなんだよね」
「はい」
「ずっと、冷たくしててごめんね」
「いえ、そんな」
「川瀬のことはちゃんとするから」
そこまで言って僕は、佐橋の手を握った。
「えっ」
「僕と」
「あ、はい」
佐橋の目が潤み始めたのがわかった。
「岸野さん‥‥」
「あ、でもその前に訊いてもいい?」
「何でも訊いてください」
そう答える佐橋の手を強く握りながら、
僕は問いかけた。
「何故、川瀬を痛めつけるの」
佐橋を見つめる表情は、笑顔のままで。
「え」
瞬間、佐橋の顔が強張った。
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