11人が本棚に入れています
本棚に追加
「この間も、ちょっかい出してたよね」
「あ、あの」
「好きな人の恋人が気に食わないから?
気持ちはわかるけど、許せる話じゃないよ」
「き、岸野さん」
その場を取り繕いたい気持ちがあるのか、
佐橋は僕に笑いかけてきた。
「ごめんなさい‥‥川瀬といる岸野さんが
辛そうに見えるので、つい」
「ずっと会ってないのに?よくわかるね」
「わかりますよ、相手は川瀬ですよ?」
「それはキミのフィルターで見た川瀬
だよね。例えそれが正しいものだったと
しても、僕がこんなに長くキミが想像する
その相手と付き合えると思う?キミは川瀬
だけじゃなく、僕まで侮辱してるんだよ」
「そんな‥‥」
佐橋の笑顔が凍りついた。
「あともうひとつ訊きたいんだけど。僕が
他人のモノだから好きだってことはない?」
「そ、それはないですよ‥‥!」
うっすらと額に汗をかき始めた佐橋に、
満面の笑みでこう言い放った。
「僕と付き合える確率は限りなくゼロだ」
「き、岸野さん‥‥!」
佐橋の手を振り払い、立ち上がった。
「由貴、入ってきていいよ」
そう言って、
既にドアの向こう側に控えていた
川瀬を呼んだ。
ドアが開き、川瀬と秋津さんが入ってきた。
「佐橋、今までいろいろありがとね」
「な、何のこと」
佐橋はこの状況をイマイチ飲み込めない
様子のようだ。
「どんなに待ってても、葵は僕のもの。
絶対に別れないから」
「は?じゃあ、その人は」
「今回の計画の協力者。会社の先輩だよ」
「いったい僕に何をしたくて、こんな」
答えようとする川瀬を制し、僕は言った。
「単なる暇つぶし。楽しかったよ」
「そんな」
顔面蒼白の佐橋が、僕を見つめた。
「優しい岸野さんが、信じられない」
「キミが僕を変えたんだ。もう二度と、
僕たちの前に現れないでくれ」
次の瞬間。
佐橋の手がテーブルの水のコップに伸び、
「葵!大丈夫っ?!」
と、川瀬の焦りに満ちた声が響いた。
僕は佐橋に水をかけられたのだと
他人事のように感じ、
佐橋は呆然としたまま
派手に頭を濡らした僕を見下ろした。
最初のコメントを投稿しよう!