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佐橋の物腰柔らかい態度と
優しそうな外見に騙されてはいけなかった。
佐橋は
僕のそばでゆっくり成長を遂げる川瀬に
定期的に近づき、悪魔の囁きを仕掛けた。
その度に川瀬は憤り、
精神的に不安定になり、泣いたりした。
この間は川瀬の軟弱な態度に
僕が初めて怒りを露わにし、
破局寸前にまで状況は悪化したが、
それがきっかけで
僕の川瀬に対する新しいミッションが
始動した。
『絶対に、川瀬由貴のそばを離れない』
簡単なようで意外と難しいと思うのは、
日々人としての魅力を開花させる川瀬を
嫉妬に近い羨望の眼差しで見ていることを
自覚したくないからに他ならない。
昔から冷静で感情の揺れが小さかった僕は、
喜怒哀楽の激しい川瀬に
この2年半、少なからず影響されてきた。
声を立てて笑い合うことが増え、
悔しい思いをすれば苛立ちの感情を
隠さなくなった。
悲しみに暮れる瞬間も素直に表現でき、
とことん快楽に浸ることも厭わなくなった。
とても些細な、何気ない出来事で
さまざまな心の動きを教えてくれる川瀬は、
僕にとって得難い存在になりつつあった。
だからこそ、
川瀬との絆が強固になっている今、
佐橋は徹底的に排除すべき存在だと思った。
長い間、僕たちのテリトリーに
土足で踏み込むことを許してきたのは、
そもそもこんな雑魚キャラは相手にしないと
判断していたからに過ぎないが、
正直、ずいぶん泳がせてしまったとも思う。
もうそろそろ、茶番は終わりだ。
佐橋にそう言ってやらないといけないと
考え、久しぶりに連絡を取ることにした。
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