mission〜最終章〜

9/12
前へ
/12ページ
次へ
佐橋と並んで店を出ると、 この場でも賑やかな音楽が聞こえてきて、 イベントなんて普段は全く興味がない、 どちらかと言えば大嫌いな僕だったが、 「佐橋くん、行こう」 と佐橋の腕を取り、乗り気の姿勢を見せた。 近づいてみると、予想以上にイベントの 見物人が溢れ、20人ほどのオーケストラが 生演奏を披露していた。 「あ。kaleidoscopeの最新曲ですね」 佐橋が上機嫌でリズムをとり始めた横で、 僕はスマホを取り出した。 そして、あらかじめ作成済のメッセージを 川瀬に素早く送った。 『広場に着いた。始めて』 円形の大きな舞台を挟んだ向こう側に、 それまで気配を消していた川瀬と秋津さんが 人の輪をすり抜け、現れた。 そして川瀬が秋津さんに微笑みかけ、 秋津さんの腕にしがみついた。 ちらっと横目で佐橋を見ると、 佐橋も2人の動きに気づいたようで、 目を見開きながら凝視している。 「川瀬、ですよね。あれ」 「‥‥うん」 「岸野さんがいるのに、何であんなこと」 「そうだね」 川瀬の演技はとても上手で、 秋津さんに自然に甘えているように見えた。 僕はわざとそこから目を逸らし、呟いた。 「まあたぶん、浮気なのかなと思ってた」 「岸野さん、知ってたんですか」 「うん‥‥あ、どこに行くんだろう」 川瀬と秋津さんが人の輪から外れて 遠ざかって行く。 「佐橋くん、後をつけてもいいかな」 「はい。見届けましょう」 僕と佐橋は川瀬に気づかれないように 充分に距離を取り、川瀬の後を追った。 川瀬が秋津さんの腕に自分の腕を絡め、 楽しそうな声を上げているのを見た僕は、 何だか複雑だなあと思いながら、 表向きは浮気現場を押さえようとする 彼氏を演じるため、眉間にシワを寄せて 唇を噛み締めていた。 やがて川瀬たちは カラオケボックスの前で立ち止まった。 「入るんですかね」 「たぶん」 「店の人に言って、踏み込みますか」 「いや、普通に僕たちも入ろう」 川瀬と秋津さんが店に入った後、 ガラス窓の外から2人が受付を済ませ 姿が見えなくなったのを確認してから 僕も佐橋と入った。 「今の人と部屋を近くしてもらうこと、 できませんか。僕の友達なんです」 受付で店員に伝え、隣の部屋を確保した。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加