女ジャイアンと巻き爪のお話

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女ジャイアンと巻き爪のお話

近所の小学生に言われた。 巻き爪の原因は深爪のせいなんだよ、と。 ちょいちょい、なんでそんなこと知っているんだ! というツッコミは置いといて、私の長年の疑問は、その瞬間解決した。 まだネットだとか、スマホなんてものがポピュラーではなかった時代。 博学小学生に教えられて、その後は痛くない生活を手に入れた。 しかし、その前にこんなことがあった。 巻き爪で右足の親指は常に痛い。 丸まった爪の先がいつも親指の先に突き刺さっている。 皮膚が破けて、膿んでしまうこともあった。 そういう時に体育の授業で、ハンドボールになる。 もう、想像がつきますよね。 ハンドボールというのは、 サッカーよりも小さなゴールに向かって、大きめのグレープフルーツみたいなボールを入れて競います。 ゴールの時にはジャンプして、手に持ったボールを勢いを付けて投げるのです。 その頃、私には天敵がいて、どうしても私をイジメたくて仕方がない人がいました。 女ジャイアンです。 骨太で面長の特徴のない顔。 どうやら以前はイジメの対象になっていたらしいが、今は反転してイジメる側に生きがいを持っている。 その女ジャイアンが、ひときわ大きな体で飛び上がり、痩せギスの私の前でゴールを決めようとした。 もう完全にワザトだとしか思えないタイミングで現れて、私の膿んだ足の親指の上にみごと着地。 自慢の全体重をかけて痛恨の一撃。 ドスーン! 「あ、ごめーん」 可愛くない声で謝ると、すぐにドスドスと離れて行きました。 明らかにワナにはまった私の目には一瞬、銀河系の星々が煌めく。 痛みで声も出ない。 あれは女ジャイアンの生きがいなのです。 体重技をかけてくるなんて!卑怯な。 間違いなくあの瞬間をずっと狙っていたはず。 昔、バレエが上手くなりたいダンサーが、悪魔に魂を売って踊りが上手くなるという呪われたトーシューズをもらい踊り続ける、というお話を聞いた。 死ぬまで踊り続けるダンサーのトーシューズは、鮮血で真っ赤に染まる… それを見ることになるので、家に帰り着くまでは自分の足を見なかった。 もう足先には、ゲームセンターに'ワニワニパニック''というワニをハンマーで叩くゲームがあったが、あのワニが食いついている気がした。 予想の通り、家に帰り着くと 呪いのトーシューズのごとき足の赤きこと… 白いオタクの靴下が、事故事件を思い起こさせる仕上がりに。 キャーッ!! はっきり言って、靴下を脱ぐのにも勇気がいる! 半泣き状態で靴下を脱ぐと、信じられない光景が… 爪が食い込む親指の先には、新たな生命体が見える。 まあるいピンクの… 肉片!! 指が破裂していた。 本当に自転車に乗ってよく帰ってこられたな、自分! これを先に見ていたら、絶対に帰れなくなっていた。 生肉丸出しでは生きられないので、即、近所の外科に行く。 「あらー、何やったのこれぇ。 指破裂してるじゃないか」 子供の頃からよく知っている太鼓腹の先生に見てもらった。 まず爪を根こそぎ切除する。 そして破裂して飛び出した肉片を切除する。 そして縫合する… そもそも怪我をしていた部分の痛みが激し過ぎて、指先の局所麻酔はかなり痛いものなのに、屁でもなかった。 麻酔が効き始めると、今までの燃えるような痛みが消えていく。 やっと人類に戻れたようだ。 そこからは、もう何をされているのかわからない。 先生は料理でもするように 肉片を削っていく。 あっという間に黒い糸で縫合されて、手術は終わった。 夜には熱が出る。 痛み止めは何も効かない。 相変わらずワニが食いついて離れない。 なおかつ、ワニのサイズは特大になっている。 ほぼ気絶して眠る。 拷問刑に使われる爪剥ぎの刑。 あれを麻酔なしで、消毒なしで、止血なしでやってみると 間違いなく全て吐く! たぶんいらないことまで自供するだろう。 地獄はここで終わらない。 1日学校を休んで、次の日になると家族は自転車で学校に行け、と言う。 ちょいちょい!靴が履けませんけど。 「これを履いて行くんだよ。」 差し出されたのは、お父さんのベランダサンダル… 「これ履いて自転車乗るの?」 「そ!」 「え?山越えるんだよ?」 「根性」 いや、根性って、足縫ってて実質片足で山こぐんだけど? 「そ。途中までついて行ってあげるから。」 さすがにこの時は、ドン引きました… でも若かったから、片足の脚力のみで山を登りきった。 若いって素晴らしい。 その後 女ジャイアンにも会ったけれど 「それ、昨日の?ごめ〜ん♪」とニタニタ笑っていた。 後日、彼女は親の転勤でアメリカに渡った。 クラスメイトに手紙を送って来たが、現地で激しい人種差別にあい、壮絶なイジメにあっているのだという。 イジメはいかんよね。 ぜひとも繰り返えさんでくれ。 かくいう私も幼少期に可愛い妹をイジメていたから、同罪である。
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