プロローグ

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プロローグ

 十二年前、日本を代表する偉大なギタリストが亡くなった。  男の名前はLand(らんど)。当時その名前を知らない者は誰一人居ないとまで言われたロックバンドBASTARDのギタリストでありリーダー。  そのLandの十三回忌ともあり、亡骸の眠る西洋風墓地の周辺は当時からの熱狂的なファンやマスコミ勢が取り囲んでいた。その状況を予め考慮した上で参列を許されたのはごく数名の関係者のみであった。  喪主の代理を務めたのはLandの兄でありBASTARDのドラマーMASAこと宝井正康。続いてベーシストのKo-Ya、ボーカルのshuriと並ぶ。彼等は既に五十代半ばであるが現在も常に音楽シーンの第一線で活躍している。特に正康はBASTARDの所属する個人事務所の代表もしており、音楽界のドンとも呼び声が高い。  誰もが遠巻きに見詰める中、特別に参列を許された者達がいた。  中でも一際目立つ長身の男。鮮やかなワインレッドの髪を風に靡かせるこの男の名前は紅音(くおん)という。紅音は正康から直々にBASTARDの後継と認められたロックバンド、アカデミィのギタリストだった。  Landの死後、幾つものバンドマンがLandに、BASTARDに憧れたが、正康のみならず全員一致で後継であると認められたのはアカデミィのみだった。中でも紅音は近年Landの生まれ変わりであるとさえ言われている。  墓地の外からその光景を見守るだけの観衆が登場を心待ちにしている人物が居た。  Landの忘れ形見であり一人娘のカノン。Landがカノンを溺愛していた事は周知の事実で、Landは過去ヘビースモーカーであったが自らの煙草の火でカノンに怪我を負わせた事から、以降非喫煙者となった事も有名な話だった。  カノンは現在二十代半ばになっている。Landが事故死した後からは正康がカノンの保護者代わりになっており、無用なマスコミの接触を全て拒絶していた為、人々は今現在のカノンについて何一つ状況を知らないままだった。  カノンの母親は公表されていない。Landは婚姻関係すら明らかにしておらず、Landの葬儀にもその姿は無かった。ただ、相当美しい女性である事は過去のLandの発言から伺い知る事が出来る。  人々は母親に似て美しく成長したであろうカノンの登場を待ち望んでいた。  しかし、この日カノンが人々の前に姿を現す事は無かった。
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