第十四話

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第十四話

「我が演劇部の姫、美佳の結婚を祝して!」 「乾パ~イ!!」 カツンッ グラスの当たる音が店内に響いた。 アサミに案内された席は店の入口を入ってすぐの辺りにあり、勿論営業時間内であったため、他のテーブルではアサミの同僚と思われる男性陣が女性を相手に接客をしている。 どの店員も外れる事なく見目麗しく、そこらの男性よりはずっと綺麗な顔をしている。 どちらかといえば志村に近い顔立ちのような気がした。しかしそれがこの店の採用条件なのかもしれない。 「でも美佳は来月から大阪かぁ。会えないと淋しくなるね。」 「うん、旦那様の仕事の関係でね。そういう真琴もこないだ婚約したんでしょ?」 「ちょっと、どうします?つかささん。後輩達がどんどん結婚していくみたいですけど。」 「アサミさんその言葉遣いウザいですよ。ほら、アレだろ。お前も彼女いたじゃん。結婚すれば?」 「あぁ、別れた。」 「また?」 美佳と真琴、つかさとアサミで話し出してしまえば当然誰の会話にも入れないのは牧村となってしまう。 しかし立ち回り方のうまい彼は、どこかしら会話の中で意見したい部分があれば邪魔にならないようにその会話の中に加わることも出来た。 「そういえば牧村聞いたんだけどさ、お前最近ユキちゃんと付き合ってるみたいじゃん」 真琴の唐突な言葉に、思わず牧村は息を呑んだ。ソファから浮かせていた腰をゆっくりと下ろすと、胸の前で両手を組む。 「そうなんですよ。ユキさんは僕の天使です。母親のような愛情で僕を包んでくれるので、僕はユキさんの事が大好きで大好きで…」 「ちょ、牧村酔ってる?」 アサミが心配になる程、牧村の瞳は少女のようにキラキラと輝いていた。 しかし、アサミに声をかけられるとその眼差しをそのままアサミへと向ける。 「酔ってないですよ?」 まさかジュースで酔う訳もないので、これが牧村の素という事なのだろう。 しかし牧村の仕種を見るたび、美佳や真琴に引けを取らないほど女らしいと感じてしまう。 高校卒業と同時に牧村の彼女となったユキには面識のないつかさだったが、牧村がここまでベタ褒めをするような相手であるからにはきっと本当にかわいらしい女の子なのだろう。 しかし逆に内面でいえば牧村よりはしっかりしているのかもしれない。 「つかさ先輩はぁ、今何やってるんですかー?」 ふと、視線を向けると美佳と真琴が興味津々の眼差しをつかさへと向けていた。 「え、俺?俺は学生。専門行きながら兄さんとこでバイトしてるよ。」 「そう!それそれ!」 ふいに背中にずしりと重みを感じたかと思うと、グラスを片手にしたアサミがつかさの背中にのしかかっていた。 「お前、兄貴なんかいたっけ?俺初耳なんだけど。」 「アサミさん、絡み酒やめてください。欝陶しいから。」 わざとらしくアサミを避けながら、つかさは美佳と真琴に作り笑顔を向ける。 普段のアサミはまったくのザルのはずなのに、この時に限って酒の回りが早いのはやはり可愛がっていた後輩の結婚祝いということでタガが外れてしまったからだろう。 「つかさ、つかさ。」 聞き慣れない声で突然名前を呼ばれ、つかさはその声の主を振り返る。 つかさの背後にいたのはアサミよりも大分身長の高い、真っ黒なスーツをスマートに着こなした男性だった。 「…お疲れ様です、レンさん。」 つかさはかつてアサミと同じこの店でバイトをしていた事があった。とはいってもそれはこの店が池袋から歌舞伎町に移る前の話で、その当時からレンとは顔見知りであった。
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