第二話

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第二話

夏がやってくるということも、つかさにとっては頭を悩ませる要因の一つでもあった。 体質的に日焼けが出来ないつかさは今日の様に出掛ける際には肌を隠さなければいけない。 それに、夏という季節そのものが、良い思い出ではなかった。 ただ蒸し暑い 聞こえるのは蝉の声と水の音 『こんなものいらない』 『うそつき』 『さようなら』 『どうして』 『もう二度と…』 「つかさっ!」 「っ!?」 要の声で現実に引き戻されたつかさは、頭の中を占拠していた気分の悪い記憶を一瞬の内に排除した。 「気分悪いならもう帰るか?」 要がつかさの顔を覗き込んでいた。 その表情は、心底つかさを心配している顔で、具合が悪いのはつかさであるにも関わらず今にも泣きそうな顔を要は浮かべていた。 「…平気」 掠れた声が出る。 「つかさ、お前何頼んだん?」 「コーヒー」 場所を移し秋葉原駅中央口の見渡せるマクドナルド。 その小さな体の一体どこにこれ程の量が入るのだろうかと首を傾げたくなる量のハンバーガーの紙屑が要のトレーには置かれていた。 つかさはその量を目にするだけで食欲が無くなってしまったのか、静かにアイスコーヒーを啜っていた。 「相変わらず食わんな。その内倒れるで?」 「倒れるなら倒れるで、要の目の届かないところで倒れるから心配しなくていいよ。」 「そんなんアカンて!」 思わず要は声を荒げて立ち上がる。 この仕事を通してつかさと再会はしたが、実際のところつかさと要は中学時代の同級生であった。 親の都合で慣れない東京に引っ越して来たばかりの頃の要に東京の事を一から教えたのがつかさだった。 要にとってつかさは恩人にも近く、高校に行かなかった要はそのままつかさの兄の探偵事務所にてアルバイトを始め、それと同時につかさとの縁はどんどん薄くなっていった。 久々に二人が再開したのはつかさが高校を卒業した直後で、中学時代とはあまりにも変わってしまったつかさの容貌に要も驚いたほどであった。 「…て、つかさどこ見とんねん」 「外」 要の言葉などまるで聞いていなかったようにつかさは窓から見える秋葉原駅に視線を向けていた。 ガラス越しには煩いライブの音も聞こえはしないが、そこで何か感じた違和感。 一人の男が駅からこちらに向かいバスターミナルを歩いている。 あまりに距離が遠くて感覚が掴めないせいか、しかし周りを歩く人々と比べると明らかにその男の歩くスピードは遅かった。 日光の下ではおよそにつかわしくない紫のスーツにピンクのワイシャツ。 一目でその男が夜の仕事をしていることは明らかだった。 重い物でも背負わされているかのようにその男の足取りは遅く、背中を押せばすぐにでも地べたにはいつくばってしまいそうだった。 「要、あの人おかしくないかな…?」 「あー?どれやねん」 つかさが指し示すその方向へ要が視線を向けた時だった。 その男は口から噴水の様に血を吹き出しその場に崩れ落ちたのだった。
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