運命の悪戯

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 その頃、紗綾の元彼氏の恵介(けいすけ)は、新たな職場で活躍しようとしていた。  すべての会社の負債を紗綾に押し付けた(のち)、恵介は、紗綾と共同経営していた会社のアイディアやノウハウ、顧客情報等を他社に持ち込んでいた。前々から声がかかっていた大手企業に手土産として、また自分が好条件で雇ってもらうために譲渡したのだ。それに加え、この会社の重役である娘とも婚約を交わしていたのだった。  もちろん紗綾は、元彼氏にこっぴどく裏切られたことには気づいている。だが、もう今となってはどうでも良かった。自暴自棄に陥った紗綾は、ここ数日、自堕落な生活を送っていた。  今現在、紗綾の住まいであるマンションの部屋はチューハイの缶やらファーストフードの包み紙、洗濯物などが散らかっており、電気とガスもが止まっていた。もうすぐ携帯も止められようとしている。家賃も2ヶ月分、滞納している。貯金は使い果たし、手持ちの所持金は2350円。それと、恵介と一緒に購入した【ラト10】の宝くじ一枚が財布に入っていた。この宝くじは恵介が別れ際、紗綾に手切れ金としてあげたものらしい。まあ、あげたといっても半分は紗綾が支払ったのだから、実質は残りの半分の権利を惠介が譲渡したことに。それも当たったとしての話。購入額は一枚たったの500円。当たる確率は約8檍分の1。ほんとうに、とことんバカにしている話だ。  当然のことながら、紗綾はこんな紙切れもどうでも良かった。当たるはずもない宝くじを恩着せがましく手渡され、これでなにもかも、おしまいにしてくれというのだから、すこぶる虫の良い話だ。恵介とは結婚の約束もしていたし、お互いの親にも紹介し合う仲だった。それなのに……一緒に立ち上げた会社の責任をすべて私になすりつけ、いつの間にか前々から付き合っていた大手企業の重役の娘と婚約していたのだから、開いた口が塞がらないとはこのことをいうのだろう。  今までのことを回想しながら、ぶつぶつと精神を病ました人のように鴨川の真ん中を歩く紗綾。そんな彼女の鞄の中から突如、スマホが鳴りだした。元彼氏、恵介からだ。  はっと、我に返ってスマホの画面に目を落とした。同時にふつふつと怒りが込み上げた。一瞬、携帯に出ないでおこうと思ったが、やはり嫌味の一つでも言わなければ、腹の虫が収まらない。いや、絶対に訴えてやると言いたかった。 「はい」 「紗綾! 紗綾! この前、おまえに預かってもらってた俺らの宝くじ、ちゃんと持ってるか!?」 (はぁ? 預かってもらってた? 俺らの宝くじ?)
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