運命の悪戯

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 川岸では、足元をびしょりと濡らした紗綾がスマホの電源を入れて、宝くじの当選番号を照らし合わそうとしていた。  半信半疑だ。恵介の言うことなどは信用できない。けれども、あれほど必死になって私に訴えてきたのだから、もしかするともしかするかもしれない。 「えっと、10、12、4、5、24、37、18、27、31…えっ! ほんまに九つの数字が当たってるやん。それで、わたしが選んだ最後の数字は……えっ、うそぉー!!」  そんな矢先、急に紗綾はまわりの目が気になった。ざわざわと騒いでいる声も気になりだした。    それもそのはず、鴨川の真ん中を歩いていた若い女性が、今度は誰かと電話で話しだしたかと思うと急に怒りだした。次いでカバンの中から何かを取り出して、ぶつぶつと独り言をつぶやいているのだから。そんな紗綾をまわりの人達は可哀想な目で見ていた。それでいて、指をさしながら、ひそひそと隣の彼氏や彼女と話していた。  だが紗綾は、自分を哀れむ人達の視線を気にしているのではなかった。未だ確信はもてないが、50億が当たっているかもしれない宝くじ。誰かに気付かれていないかと気が気ではなかったのだ。  元々、頭の回転が速い紗綾。前に勤めていた会社の仕事もそつなくこなしていたキャリアウーマン。そんな紗綾の頭がフル回転で働きだす。 (こんなことしている場合じゃない。早く人気(ひとけ)のない場所でこの宝くじの番号をもう一度、確かめなくっちゃ)  そう思ったとたん、紗綾はいそいそと階段を上り川端三条のバスターミナルの近くにある公衆トイレへと駆け込んだ。 (ここなら、となりに派出所もあるし、何かあっても安心ね)  トイレのドアを閉めるなり、紗綾はもう一度当選番号を確認しだす。それも、またいちから。間違いがあってはならない。ぬか喜びで終わるのはバカらしい。これ以上、情けない思いはしたくない。そう思いつつ、慎重に慎重に、目を凝らしてスマホの画面と手元にある番号とを照らし合わせた。 (10、12、4、5、24、37、18、27、31…15…う、嘘でしょ。やっぱり、当たってる! だめ、もう一度確認しなくっちゃ。えっと、10、12、4、5、24、37、18、27、31…15)  確信に変わった瞬間、当たり券を見る目ん玉がこぼれ落ちそうになり、心臓が飛び跳ねた。少しの間、頭が真っ白になり呼吸するのも忘れた。  紗綾はもう一度、当たりくじをまじまじと見る。と、それを持つ手がガタガタと震えだして数字が読み取れない。胸の鼓動が高鳴り、心臓に血液がドクッドクッと流れ出る音も聞こえだす。そして、知らず知らずのうちに紗綾の小さな口が動いた。 「ヤ、ヤバイっ!! ご、ご、ご、五十億、当たっ…」  思わず口走ってしまった。が、すぐに正気を取り戻し口に手をあてた。あたり券を震えながらつまんでいる指先に力が入る。 (でも、待て待て。落ち着けわたし。こんな夢みたいな話あるわけがない。そうだ、これはきっと夢なんだわ)  なかなか現実を受け止めれない紗綾は、上唇にあてていた人差し指のつけ根をおもいっきり噛んだ。 「いっ、たぁー !!」
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