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そんな、浮かれた心持ちの紗綾とは別に、当たりくじの番号抽出に失敗した尾崎達は車の中でひろひそと密談をしていた。
「大槻君、一体どうなってるんだ?」
宝くじの当選番号を抽出する機械製作メーカーの社長が技術者である大槻を問いただした。
「いや~、社長、ほんとうに申し訳ありません。昨日、あれから何度もチェックしたのですが……これはかなりの想定外でして……とりあえず、ラボに帰って失敗した原因を徹底的に追及しないことには、今の段階ではなんとも……」
「申し訳ありませんではすまないんだよ! 今回は尾崎君のおかけで、この仕事がとれたもんの……次に我々にこの仕事がまわってくるのは、ずっと先の話なんだ。だから、いまさら原因を追及したところで……はあ~」
社長の菅沼がやるせなさのあまり怒りはするも、話が終わらない内に深いタメ息を吐き落胆の色を隠せなかった。
宝くじ財団が、当選番号を抽出する機械の製作会社を選ぶのは、業者との癒着を防ぐため、毎年別の業者に変わることが決められている。というわけで、この会社が次、宝くじ財団から仕事を受注するのはいつになるかわからない。
「社長、今回の宝くじ、もしも当選者がいなければキャリーオーバーとなって当選金額が85億に跳ね上がるシステムでしたな?」
尾崎が社長に訊ねた。
「そうですが……さきほど事務の人間に確認したら当選者が1人いてると言っていた。だから尾崎君、もう終わったと思ってくれ。色々と労を費やしてくれてすまなかった」
「いえ、社長。もしも当選者が換金期限の半年の間に現れなかったらどうなりますか?」
「それは…キャリーオーバーと同じ扱いになるだろう。しかし、そんなことは万にひとつもないだろうな」
「いえ、それを私がなんとかしてみましょう」
「おいおい尾崎君、物騒なことは言わんでくれ。もしも警察沙汰になったら目もあてられんからな」
「社長、私はそんなへまはいたしませんよ。そういう困り事を専門に扱う裏稼業の者を知っておりますんで、ここは私におまかせを──だが、大槻君、次しくじればどうなるか、わかってるだろうな? ちゃんと万全の体制を整えておいてくれよ」
そう尾崎が言うと、大槻に鋭い眼光を差し向けた。
「……は、はい、それはもう…」
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