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紗綾の現在の所持金2210円。このお金で2週間乗り切らないといけない。住まいがあるマンションの前では元彼氏恵介が手ぐすねを引いて待っているだろう。家には帰れない。この当たりくじを守らなければ。でも、今晩の寝床も探さないといけない。この窮地の打開策をネットで調べていたら、最寄りの警察署にあるシェルターに行き着いた。
配偶者からの暴力を避けるため一時的に保護してもらえる施設だ。そこなら当面は雨風をしのげるし食事には困らない。けれど、恵介から暴力は受けていないし、こういう公共施設は色々と根掘り葉掘り聞かれて、面倒のような気もする。その上、宝くじのことは誰にも知られたくはない。
(やっぱり、自分の家に帰るしかないか…)
そう考えた紗綾は、危険を承知で自宅のあるマンションへと歩を進めた。
いまだ冷たい風が吹きすさむマンションにそろりそろりと近づくと、紗綾は神経を研ぎ澄ませ、辺りの様子をうかがった。
(……いてた、あそこに! 電信柱の影に隠れて。どうしよう…このままダッシュでマンションに入っても、多分、玄関のオートロックを解除している間に捕まるだろうし、困ったな……)
何か良い方法がないかと、あれやこれやと模索する紗綾。もう夜は深まり時刻は深夜1時になっていた。
そのような時だった。パトロール中の警官が恵介に向かっていった。おそらく、こんな夜更けに同じ場所にずっと立っている恵介を見て不審者だと思ったのだろう。私からしたら、不審者というよりは不届き者なんだけど。
でもこれはラッキーだ。この隙にマンションに入れる。
恵介は警官に身ぶり手振りを交えて不審者ではないのだとアピールしているようだ。
今だ! すぐさま紗綾は闇にまぎれ、目立たないようにしてオートロックを解除する。
とたん、両開きのドアが開いた。タッタタと駆け足でエントランスに飛び込んだ紗綾はエレベーターに乗らず非常口のドアを開けた。
どうやら気づかれずに上手く入れた。非常口の鉄のドアが静かに閉まると、ホッと胸を撫でおろした。
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