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「昔チャリティーで描いた絵があるんだけど、それは末期の癌患者の心を描いたものだったんだ。僕があったのは枯れ木のようなおじいさんでね、身体の方は老いて病んで干からびていたが、心は瑞々しかったよ。君もきちんと病巣と向き合えればいいのだけど」
ケッ、俺の今の精神状態は末期がんのじいさん以下ってわけか。
きっと朔は人に気を遣ったり、お世辞を言うのが苦手なタイプだろう。その言葉は馬鹿正直だ、そのふてぶてしさときたら子どもと話しているような気分にすらなる。話さないでおこうとかやめておこうといった配慮が全然なくて、問答無用で話しかけてくる。
「食べることがまだ少しつらい?」
「……暫くは誰かの作ったものは食べたくないかな」
俺はあの事件以来、ますます細々と暮らすようになっていた。殆ど外食はせず、自分で材料を買って自炊する。
コンビニで売られているような既製品もなんとなく手に取りづらくて、俺はなんでも自分で作るようになった。元々料理は得意だったし、ストレスもなかった。
「じゃあ、このクッキーも難しいかな」
美味しいよ、と開封したばかりのそれを毒見とばかりに食べて見せ、朔が微笑む。
「食べてみるよ」
「僕、去年身体を壊した時に漢方を処方して貰ったんだ。初めての場所で展覧会を開いたら、ウイルス性の胃腸炎にかかってしまってね。僕、本当に運動もしないし食事も睡眠もおろそかにするから免疫力がないみたい。肝臓に負担をかけない解毒の仕方があちらの国にはあるから、君もどう?」
話を聞いているうちに俺はおかしくなってきて、こんな変な人間もいるのかといっそ感心していた。彼は本当に絵ばかり描いて暮らしているらしい。
「なあ、どうして食事も睡眠もとらないで絵を描いているような人間が、最近はずっと部屋にいるんだ」
ツチノコみたいな男だ。こんなやつ、世界中を探してもそうそうお目に掛かれないだろうというくらい朔は変わっている。常識に嵌まらない自由さがあって、いっそのこと羨ましい。
「君のことが心配なんだ。病院に運ばれたと聞いても僕は他人だし、君と挨拶しかしたことがない。それなのに……急に、絵が、描けなくなってしまって」
「なんだって?」
俺は言った、我ながらどんくさい返事だったと思う。
「君のことが気になって。大丈夫かなぁって……それで絵が描けなくなってしまったんだ。これって、恋だと思う。君のことが好きなんだ」
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